『嫌われる勇気』著者が記す、前向きに生きたい人のためのちょっぴり後ろ向きな人生論

泣きたい日の人生相談 (講談社現代新書)
『泣きたい日の人生相談 (講談社現代新書)』
岸見 一郎
講談社
1,100円(税込)
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 人生にはさまざまな"泣きたい日"があるものです。長年付き合っていたパートナーと別れた、仕事で上司に怒鳴られた、といった明確なできごとから、将来のことを考えると不安だ、これといった人生の目標がない、といった漠然とした心配事まで、悩みなくして生きられる人のほうが少ないことでしょう。そんな自分とどう向き合って生きていくか――その参考になるかもしれない一冊が『泣きたい日の人生相談』です。

 著者はベストセラーとなった『嫌われる勇気』や『幸せになる勇気』で知られる岸見一郎氏。同書でも専門である哲学やアドラー心理学の観点から、仕事や人間関係のストレス、将来やお金にまつわる心配、恋愛の悩みなどについて回答しています。

 岸見氏の人生論は、自身も記す通り「何でも思う通りになると考えるポジティブな人には『後ろ向き』に見えるかもしれません」(同書より)。反対に言えば、人生が思い通りにいかずにもがいている人にとっては心に響く答えが多いのではないでしょうか。

 たとえば、「老後の生活が心配だ」という悩みについて見てみましょう。先行き不透明なこの時代、何歳まで働かないといけないのか、健康なまま働けるのかなどを考えると、不安になる気持ちもわかります。これに対する岸見氏の回答は「考えるだけ無駄」というもの。自分が何歳まで生きられるのか、長生きできる保証はどこにもありません。

「今は老後の生活を不安に思っていても、現実に老後を迎えれば、起こることは起こるし、起こらないことは起こりません。今、まだ見ぬ未来のことで不安になっていても仕方ありません。すべては、その時に考えればいいのです」(同書より)。

 この「今ここにある幸せに注力する」というのは、同書のいたるところに出てくる考え方です。「平穏な幸せがいつまで続くのかと思うと怖いです」という悩みには、こう説きます。

「平穏な日はいつまでも続かないと思わせたる最たるものは『死』です」
「明日死ぬかもしれないという事実を忘れると、人は今この瞬間を、将来のためだけに生きてしまう。明日どうなるかは誰にもわからないこそ、今日という日を今日という日のために生きられるように心がけるべき」(同書より)

 そもそも「幸せ」とはどのような状態なのでしょうか。皆さんの中には、結婚して子どもを授かったり、高い目標を掲げてキャリアアップにまい進したりしている友人たちを見て、自分に価値が見いだせず幸せを感じられないと悩む人もいるかもしれません。岸見氏は、いい学校に入り、いい会社に入り、昇進し、家族を持つ、という成功は「一般的」なものだとし、「一方で『幸福』は、成功とは違い『各人においてオリジナル』なもの」(同書より)だと記します。何かを達成しなければ「成功」ではないのに対し、幸福は何も達成しなくとも「ある」もの。「成功」と「幸福」を分けて考えると、私たちはもう少し生きやすくなるかもしれません。

 哲学について馴染みがない人からすると、同書のアドバイスの中にはすぐさま理解できないものもあるかと思います。けれど、読み進めているうちに「ああ、そういうことか」となんとなく、そしてストンと腑に落ちるところがあるのではないでしょうか。「私の基本的な考え方は、まず、人は変わりうるということです」(同書より)という岸見氏。同書は今の自分をちょっとずつでも変えたい人にとって、勇気ある一歩を踏み出すための心強い存在となってくれることでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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