【「本屋大賞2023」候補作紹介】『#真相をお話しします』――日常に潜む違和感をテーマにした5篇。その真相に背筋が凍る......!

#真相をお話しします
『#真相をお話しします』
結城 真一郎
新潮社
1,310円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2023」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、結城 真一郎(ゆうき・しんいちろう)著『#真相をお話しします』です。
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 私たちの日常にはさまざまな"真実ではないもの"が存在します。嘘、隠しごと、作り話、妄想......。ありふれた光景の中にそれらは紛れ込み、やがて小さな違和感や歪みとなって私たちに警告します、「何かがおかしい」と――。『#真相をお話しします』はそうした日常に潜む異変をテーマにした5篇からなる作品集です。
 
 中でも、同書の最後に収録されている『#拡散希望』は、「2021年 第74回日本推理作家協会賞」を受賞した一作です。「僕」こと渡辺 珠穆朗瑪(わたなべ・ちょもらんま)は「子育ては絶対田舎で」と決めていた親とともに、東京から長崎県にある島に移住してきた小学3年生。島には「僕」を含む移住組の同級生3人と、島生まれ・島育ちの凛子の計4人しか子どもがいません。ゲームやスマホは一切禁止という環境でのびのびと暮らす中、ある日、iPhoneを手に入れた凛子が「みんなでYouTuberにならないか」と持ちかけます。初めて目にした動画に魅了され、YouTuberへの憧れを抱く「僕」でしたが、ある事件を境に、島の人たちが急によそよそしくなり、凛子までもが3人から離れていったのです。そして3年後、「僕」は恐るべき真実にたどり着くことに......。「僕」の両親はなぜ頑なにスマホを禁止してきたのか、なぜ家の中に入ってはいけない部屋が存在するのか――。

 「僕」が真相を世間にさらすべく取った行動は予想外ではあるものの、「こんなことが起きてもおかしくないな」と思えるものです。他の4篇にも通じるのが、そうした「今」を切り取ったかのような空気感。「惨者面談」では過熱化する中学受験、「ヤリモク」ではマッチングサイトを使ったパパ活、「パンドラ」では不妊治療や精子提供、「三角奸計」ではコロナ渦でのリモート飲み会が描かれ、どこか私たちの日常の延長線上にあるかのような気持ちを抱かせます。だからこそ、随所に潜む違和感にはリアルなスリルや恐ろしさがあり、読者を何とも言えない不安な気持ちにさせるのです。とはいえ、ラストで真相が解明されたところで、完全にスッキリできるかというとそういうわけでもないのですが......。

 それも含めて、今の時代の持つ不透明さのようなものがひたひたと伝わってくる同書。どの作品も二転三転する展開に驚愕するとともに、最後には鳥肌が立つようなゾクリとする感覚を味わえることでしょう。お化けや幽霊なんかよりも、生身の人間のほうがよっぽどホラー。恐ろしさというものは、案外私たちの日常と近いところにあるものなのかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]

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