【「本屋大賞2023」候補作紹介】『宙ごはん』――食べることは生きること。あたたかなごはんが母娘を結び、幸せの連鎖を広げていく

宙ごはん
『宙ごはん』
町田 そのこ
小学館
1,760円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2023」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、町田そのこ(まちだ・そのこ)著『宙ごはん』です。
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 2021年の『52ヘルツのクジラたち』(大賞受賞)、2022年の『星を掬う』に続き、今年で3年連続の本屋大賞ノミネートとなる町田そのこさん。今回紹介する『宙ごはん』も多くの書店員の支持を得ることとなりました。

 主人公の川瀬 宙(かわせ・そら)には、母親がふたりいます。厳しいながらも愛情いっぱいに育ててくれる「ママ」の風海(ふみ)と、宙を産んだあともイラストレーターとして活躍する魅力的な「お母さん」の花野(かの)。母がふたりもいるなんてとってもラッキーだと思っていた宙でしたが、小学校入学を前に彼女は大きな決断を迫られます。風海の夫・康太の赴任先のシンガポールに家族と行くか、それとも日本に残って花野と一緒に暮らすか。大人らしくない花野となら楽しい毎日が過ごせそうだと夢見て宙は後者を選びますが、実際の花野は子どもの世話がまったくできない人でした。料理は作らない、授業参観日にも来ない、歳がずいぶん離れた恋人とのデートに宙を連れていく......。

 そんな宙のために毎日ごはんを作りに来てくれ、話し相手となって寂しい気持ちをやわらげてくれたのは、花野の中学時代の後輩で料理人の佐伯恭弘(さえき・やすひろ)、通称「やっちゃん」です。花野との暮らしが限界に達して宙が家を飛び出したときには、実家が営むビストロに連れて行き、ふわふわのパンケーキを作ってくれたやっちゃん。あまりのおいしさと優しさに、宙の胸は温かさで満たされるのでした。

 その後も、成長しながらさまざまな痛みや悲しみに遭遇する宙の心を癒やしてくれるのは、ほこほこのにゅうめんにきのこのとろとろポタージュ、ぱらぱらレタス卵チャーハン......と温かな食卓であり、ごはんでした。同書は、ごはんを通じて人と人が心を通わせ、元気を蓄え、ふたたび成長していく物語でもあります。花野と宙の母娘にとって、あるとき耐えがたいほどの大きな別れが訪れますが、その苦しみを驚くほどの力で乗り越えていったふたり。それができたのは、やっちゃんという存在があったから。やっちゃんが大きな愛情を花野と宙にずっと注いでくれたからこそ、ふたりは立ち直ることができ、今度は他の人たちにも同じように与えていける強さを持てるようになったのではないでしょうか。誰かが作ったごはんを「おいしいね」と言い合ってみんなで食べる――そんな光景があれば、幸せの連鎖はどんどんと広がっていくのかもしれません。それが家族でなくとも。

 ときには涙で読み進められなくなるほど感情を揺さぶられながらも、最後にはひと筋の希望を見せてくれる"町田ワールド"は今作でも健在です。ごはんが空腹を満たしてくれるように、同書はみなさんの心に栄養を与え、温かな気持ちでいっぱいにしてくれることでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]

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