もしも世界が終わったら? 人類が最短ルートで文明を再建するためのサバイバルマニュアル

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた
『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』
ルイス ダートネル,Dartnell,Lewis,えりか, 東郷
河出書房新社
4,199円(税込)
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 「パンデミックが起こり人類のほとんどが滅びる」「世界規模の大災害が起こり人類が路頭に迷う」といった展開は、フィクション作品でたびたび見られるものだろう。しかし過去には、突然の黒死病(ペスト)の流行で人口が大幅に減ったこともあった。人々があり得ないと思っていたことが実際に起きる可能性は、必ずしもゼロではないと言える。では文明が滅んだあと、人間社会を再起させるためにはどうすればいいのか?

 今回紹介する書籍『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』(河出書房新社)には、有事のときに人類が生き延びるための知恵が詰め込まれている。

 文明再建のために必要なものは、決して人類が築いた全知識の網羅的な記録などではない。著者のルイス・ダートネルいわく、知識の「再発見を促す」ことが重要だという。同書は基本的な生活基盤を守るための実践的知識と、最短ルートで人間社会を再発展させるための「濃縮された知識の種」をまとめた文明マニュアルのようなものなのだ。

 世界が混乱する事態に陥ってもすぐに生命線が絶たれるわけではなく、いくらかの猶予期間があるだろう。直前まで文明が営まれていたのであれば、衣食住を整えるのに必要なアイテムはまだ街に溢れかえっている。極限の状態で生き延びるためには、与えられた猶予を有効に使い最低限の生活レベルを維持できるよう務めることが大切だ。

 ダートネルによると、人間社会を維持できなくなったあと最初に確保しなければならないのは避難場所である。

「食糧がなくても数週間は、飲み水がなくても数日間は生き残ることが可能だが、過酷な気候で外気にさらされたら、ものの数時間で命を落とすだろう」(同書より)

 周囲に残っている使えそうな建物を活用するのはもちろん、キャンプ用品店で実用的なアイテムを拝借することもできる。防水加工されたジャケットや丈夫なシューズなどを手に入れられれば、多少天気が悪くとも屋外で快適に作業できる。また、火を安全に焚ける環境も生存のためには欠かせない。火が使えれば暖を取れるだけでなく、食糧を調理したり明かりにしたり、金属を溶かして道具を作ったりすることも可能だ。

 住環境を確保できたら、次に必要なのは飲み水である。私たちは水分補給のためだけに毎日3リットルほどの水が必要だが、調理や入浴、洗濯にも水は欠かせない。上水道が完全に使えなくなる前に、浴槽やバケツ、ポリエチレンの袋などあらゆるものを利用してできる限り貯水しておきたい。さらに、貯めた水をろ過したり消毒したりする方法も心得ておく必要がある。

 もちろん飲み水だけを抱えていてもいずれ生きていけなくなるので、あわせて食糧を確保するのも重要だ。生鮮品や出来合いの食品はおおむね数週間で腐敗してしまうため、初期の段階で消費するのが望ましいとのこと。徐々に長期保存できるジャガイモなどの野菜や穀物、缶詰などを食べ始めれば、周囲に残された食糧をなるべく無駄にすることなく活用できるだろう。加えてサプリメントなどを摂取すれば、栄養の偏りを少しばかり補うことも期待できる。

 そのほか医薬品や燃料などを入手し生活の基盤を整えられれば、次に向かうべきは食糧の自給システムの構築だ。現存する食料品が枯渇する前に、それぞれの土地に合った農業の仕方を模索する必要がある。生産した食糧を長期保存するためには、塩や酢などの調味料を使ったり、乾燥あるいは発酵させたりする工夫が役立つだろう。

 またいずれは食糧以外にも、さまざまなものをゼロから作り出せるようにならなければならない。農業によって食糧供給が安定すれば、エネルギーや輸送手段、コミュニケーションツールなど他の領域の研究にも人手を割けるようになるとダートネルは言う。

「社会は、基本的な必須条件が満たされて初めて、複雑に将来性をもって発展できるのである。余剰農産物が文明の進歩を推し進める基本的なエンジンなのである」(同書より)

 現代は、さまざまな分野の研究と技術の発展により高度化してきたと言える。長い年月をかけて構築した文明が突如として崩壊すれば、以前の状態まで回復するのは決して簡単なことではない。しかし最低限の知識と素材があれば、かつての狩猟採集社会にまで戻ってしまうことは食い止められるかもしれない。

 今回触れたのは、ダートネルが示した思考実験の概説である。同書は人類社会再建の手引書として、各分野に関する詳しい知識や具体的な手法をまとめた興味深い一冊だ。もしものときのためだけでなく、私たちが生きる文明の仕組みを理解するためにも目を通す価値はあるだろう。

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