足りないことで満たされてみる? 本屋大賞ノミネート作『誰かが足りない』

誰かが足りない
『誰かが足りない』
宮下 奈都
双葉社
1,296円(税込)
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 「あのとき違う選択をしていたら、もっと今は違う状況だったんじゃないか」

 そんなふうに感じることはありますか?
 
 たとえば受験勉強。たとえば就職活動。あるいは結婚や、大切な人との別れ......。人によって、ターニングポイントはさまざまですが、ある程度の年齢になれば、「あのとき......」というのは、多くの人が抱える感情です。自分はこんなものではないこんなはずではない、と思うと同時に、自分なんてしょせん、と自己防衛しようとする、矛盾しモヤモヤと胸の奥底でわだかまるような思い。

 誰からどんな助言があったにせよ、どんな選択も最終的には自分自身で決めたものです。すべての責任は自分にあるという現実を受け止めきれず、誰かのせいにしたくなったときに生まれるのが、おそらく、"誰かが足りない"という感覚。

 何か大切なものが足りない、誰かが足りない気がする、だから今は満たされていない――あなたの心のどこかに、そんな思いはありませんか?

 宮下奈都さんによる小説『誰かが足りない』(双葉社/1,260円)の舞台は、なかなか予約が取れない人気のレストラン「ハライ」。ある年の10月31日午後6時に、その店のテーブルを予約した6組の客人は、それぞれに、そういった漠然とした喪失感や、昇華しきれない思いを抱えています。

 就職が上手く行かず恋人もお金も失い、それでも実家に戻ることに抵抗を感じもがいている男性。夫を失い、認知症の症状が出始め、あいまいな世界を生き続けている女性。"人の失敗の匂い"を感じ取りながらも、何もできない葛藤を抱えている女性。それぞれに悩みを抱え、静かな日常を生きるなかでなんとか前に進もうとする様子がていねいに描き出されます。

 どこまでも人間くさい登場人物に、自分自身の悩みを投影して、あるいは親しい友人の悩みを聞くような感覚で、読み進められる一冊です。作家初の本屋大賞ノミネート作品となる本作は、見事受賞となるのでしょうか。

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