アカデミー賞最有力『ヘルプ』原作は1130万部超の米ミリオンセラー

ヘルプ (上) 心がつなぐストーリー (集英社文庫)
『ヘルプ (上) 心がつなぐストーリー (集英社文庫)』
キャスリン ストケット
集英社
741円(税込)
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 2月27日(日本時間)、第84回アカデミー賞授賞式がおこなわれます。作品賞などにノミネートされているのが『ヘルプ 心がつなぐストーリー』。すでにゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞し、アカデミー賞最有力候補の呼び声も高い作品です。原作は、全米で1130万部のミリオンセラーとなったキャスリン・ストケット著の同名小説。人種差別という重いテーマを扱いながらも、困難な時代に生きる女性たちのしなやかな強さ、人種を超えた心のつながりをユーモアあふれる軽いタッチで描いています。

 舞台は1960年代のアメリカ南部。白人家庭では、"ヘルプ"と呼ばれる黒人メイドを雇うことが一種のステイタスでした。"白いレディ"である若い白人女性たちは、ヘルプに家事や子育てを任せ、慈善事業と社交にいそしみ、見栄の張り合いにかまける日々でした。

 幼いころ自分もヘルプに世話をしてもらった経験のある白人女性スキーターは、レディになった友人たちのヘルプに対する態度に疑問を持ちます。そして、ジャーナリストになりたいという夢への足がかりとして、白人家庭に長年仕えてきたヘルプの声を本にすることを思い立ちます。

 人種隔離政策が幅を利かせる閉鎖的な小さな町で、黒人に対するリンチ事件や不当逮捕はあとを絶たない時代。白人女性が黒人メイドから、雇い主である白人家庭の話を聞くというのは、まさに命がけの行為でした。そのため、ヘルプたちはインタビューへの協力を拒むのですが、ある事件をきっかけに彼女たちの心に変化が起こります。不当な仕打ちに屈してばかりではいられない、自分たちの言葉を語ろうと決意。町中の白人の目をかいくぐり、1年をかけて13人のヘルプのインタビューがひそかに続けられていったのです。

 本書は3人の語り手によって物語が進みます。彼女たちのキャラクターがなんとも魅力的です。大きな声で正義を訴えるわけではありませんが、それぞれのやり方で、閉鎖的な町に小さな風穴を開けていきます。
 
 ほんのりとした希望を胸に灯し、いつまでも物語の中に留まっていたい、読み終えてしまうのが残念、と思わせてくれる心温まる一冊です。

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