トップランナーが行う心理戦。瀬古利彦さんが得意としたレース中の揺さぶりとは

すべてのマラソンランナーに伝えたいこと
『すべてのマラソンランナーに伝えたいこと』
瀬古 利彦
実業之日本社
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 6回目を迎える"日本最大のレース"東京マラソンが、まもなく開催されます。今回は、ロンドン五輪男子マラソン代表選考会を兼ねており、「最強の市民ランナー」の川内優輝(埼玉県庁)をはじめ、藤原正和(ホンダ)、藤原新(東京陸協)、尾田賢典(トヨタ自動車)と注目のランナーたちが登場します。

 また、優勝争いだけでなく、トップ選手にエールを送りながら走る一般ランナーや、思い思いのコスチュームで大会に臨むランナーの姿も恒例。今年も見所の多いレースになることでしょう。


 「マラソンには心理戦がある」

 こう話すのは、エスビー食品でマラソン15戦10勝の好成績を残した瀬古利彦さん。レースで勝つためには、勝負どころで、周囲の選手の状態を把握することが必要で、時には揺さぶりをかけることもあったそうです。

 瀬古さんがよく行なった揺さぶりとは、30kmを過ぎたあたりから、わざとライバル選手の真横に行って、息を止めて涼しい顔で走るというもの。このくらいの距離になると、どんな選手でも疲れは出てきますし、勝負の仕掛けどころが近づいているので、周囲の選手の動きに敏感になります。そんなところに瀬古選手が何くわぬ顔で近づき、呼吸を乱さずに走っていると、大抵の選手は動揺したそうです。その結果、ペースを乱したり、逆に不必要な揺さぶりを瀬古さんに仕掛けたりするのです。

 瀬古さんにとって、三度目のマラソンとなった福岡国際マラソンでは、宗茂さんが前半から飛び出し、瀬古さんらが追う展開でした。30kmあたりで、並走していた選手に「そろそろ前を追いかけませんか」と言いました。結局、その選手は瀬古さんについていけず、レース後、「あんなペースでも余裕をもち、話しかけてくる瀬古君は将来とんでもない選手になるに違いない」ともらしていたそうです。選手は、こういった一言で精神的に参ることもあるのです。

 逆に、アフリカ人選手はレース中におなじ国の選手とよく話すので、「なんでそんなに余裕があるのだ」と不安になったことも。

 これらの選手同士の戦いは、テレビではなかなかわからないもの。しかし、トップレベルの選手たちがギリギリの戦いをしていると、わずかな動きの変化でレースの流れがガラリと変わることがあります。そんな一瞬を逃すまいと、集中してレースを見るのも、奥が深くて楽しそうです。

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