いや~な汗をかく小説「イヤミス」の魅力とは?
- 『ふたり狂い (ハヤカワ文庫JA)』
- 真梨 幸子
- 早川書房
- 756円(税込)
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最近、書店のポップなどで目につくようになった「イヤミス」という言葉をご存じですか。イヤミスとは、イヤな汗がたっぷり出るミステリー小説のこと。人間の奥底にひそむイヤ~な心理をこれでもかと描き出し、見たくないと思いながらも、読まずにはいられない......、そんなイヤミス小説が、昨年末あたりから盛り上がりを見せています。
2012年、『ユリゴコロ』で第14回大藪春彦賞を受賞した沼田まほかるとともに、イヤミスの旗手として注目されているのが真梨幸子です。昨年中ごろに発売された真梨氏の『殺人鬼フジコの衝動』は口コミでジワジワと広がり、30万部を突破するヒットとなりました。そのヒットを受け、デビュー作にしてメフィスト賞受賞作の『孤虫症』をはじめ、過去の作品が続々と文庫化されています。
『ふたり狂い』は、主人公がそれぞれ異なる一話完結の短編集です(最終的に、それぞれの事件が因果関係で結ばれていることがわかります)。それぞれの主人公は、皆、どこにでもいそうな平凡な人物。それなのに、ちょっとしたストレスであちら側に行ってしまう、その恐ろしさをブラックに描いています。
例えば『カリギュラ』では、自分が間男だと勘違いされ、「殺してやる」と言われているのに、そのいきり立つ男を前に、その男の頭のずれたかつらが気になって、短絡的な事件を起こしてしまう。他の短編も同様です。
「なんでこんなバカなことを」と、冷静であれば笑い飛ばすところですが、読み手も冷静ではいられない心理状態にしてしまうところが、真梨氏の小説の怖いところです。仕事が納期に間に合わないなど、誰もが体験したことのある焦りや保身という、胃をキューッと縮ませる緊張の描写が、読み手の共感を誘い、手にイヤ~な汗を握らせます。そして、主人公とともに緊張が最高潮に近づいたとき、ブチッと緊張の切れた瞬間が訪れるのです。主人公の行動とともに読み手に訪れる「やってしまった......」というある種の開放感が「イヤミス」の病みつきになってしまう一つの要因かもしれません。
イヤーな汗に包まれながらも読まずにはいられない、誰かに話さずにはいられない、そんな「イヤミス」中毒にくれぐれもお気をつけください。