第13回 僕の、永遠の憧れ、レイ・ハリーハウゼンさんへ
- 『恐竜グワンジ 特別版 [DVD]』
- ジェローム・モロス,ジェイムズ・フランシスカス,ギラ・ゴラン,リチャード・カールソン,ジェイムズ・オーコナリー,ウィリス・H.オブライエン,ウィリアム・バスト,レイ・ハリーハウゼン,チャールズ・H.シニア
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きっと、いまあなたは、シンドバッドの新作のために天国でロケされているのですよね。
あの日、グワンジの谷に行くことがなかったら、僕は映画をここまで好きにならなかったでしょう。
そして、あなたが生み出したクリチャーたちが跋扈する、ワクワクするような世界が、少年時代の僕にとって、どれだけなくてはならない"心の隠れ家"であったことか。
あなたがいざなってくれた、この素晴らしい世界を、決して、決して忘れることはありません。
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僕がうまれて初めて、映画館で観た洋画。それは1969年に公開された『恐竜グワンジ』という怪獣映画でした。この『恐竜グワンジ』を担当した伝説のVFXマン・・・いや、魔術師レイ・ハリーハウゼン氏が、5月7日天に召されました。
僕が敬愛してやまない、そして僕の人生を変えた2人のクリエーターがいます。ひとりは、マーベル・コミックで、スパイダーマンやアベンジャーズを世に送り出した、スタン・リー氏、そしてもう一人が、このレイ・ハリーハウゼン氏なのです。
恐竜や突然変異の巨大生物、エイリアン、神話に登場する怪物たち(彼はいわゆる"怪獣"をモンスターと言わず"クリチャー"と言っていたそうです)の人形を作り、それをコマ撮りして動かしていく。それがスクリーンに投影されたとき、人形だったハズの彼らが、ちゃんと"生ある存在"として僕らを魅了する。まさに"命を吹き込む"というコトバがピッタリの魔法。
人形アニメ=コマ撮りならではの独特の動きが、逆に悪夢をみているかのような、超現実的な印象を残します。このテクニックだけでもすごいのに、クリチャーたちのデザインが強烈かつ秀逸で、心に残ります。
例えば『タイタンの戦い』に登場する、神話の怪物メデューサは、誰もが知っている頭髪蛇女を、さらに下半身が大蛇という独自のデザインにしています。だから、2010年のリメイク版『タイタンの戦い』が、普通にギリシア神話の同じストーリーを映画にすればよかったのに、わざわざ版権がかかる『タイタンの戦い』にしたのは、このハリーハウゼン版のメデューサをスクリーンに出したかったからではないか、とさえ思ってしまいます。
2007年10月24日、東京国際映画祭にて、このハリーハウゼン氏の特別回顧上映が行われ、六本木のTOHOシネマズの大スクリーンで、3本が上映されました。
彼が50年代に手がけたモノクロのSF映画『水爆と深海の怪物』(巨大なタコが金門橋を破壊!)『世紀の謎:空飛ぶ円盤地球を攻撃す』(ティム・バートンの『マーズ・アタック』の元ネタの一つ)『地球へ2000万マイル』(金星竜イーマが、ロシアで大暴れ)が、デジタルでカラーリングされ、DVDで発売されることを記念したイベント。
この日、僕は、ハリーハウゼン・クリチャーの中でも、人気の高い『シンドバッド 7回目の航海』に登場する一つ目巨人サイクロップスのかっこうで、上映イベントに駆けつけました。
実は、このDVDのキャンペーンを僕が担当していて、そのCMが、上映に先立ち大スクリーンで上映されたのです。尊敬するハリーハウゼンさんのイベントの前座に僕が作ったCMを使ってもらえるなんて、本当に光栄かつ幸せな夜でした。
多くの傑作を世に残したハリーハウゼンさんですが、僕のベスト・ハリーハウゼン映画は『シンドバッド 黄金の航海』。この映画に登場するカーリーという6本腕の女神像は、悪の魔法使いによって動き出し、それぞれの手に剣をもって、シンドバッドたちに襲い掛かります。銅像が動き出すという怖さと、このキャラがかもしだす独特の官能がブレンドされ、ファンタジー映画史に残る名シーンでしょう。
『恐竜グワンジ』のラストで、主役の恐竜が、炎につつまれ絶命します。僕は、胸がつまりました。
他のシーンは、ほとんど覚えていないのに、「かわいそう」と思った記憶だけが、ずっと残っているのです。
そう、ハリーハウゼンのクリチャーたちには心が宿っているから、"彼ら"にいつしか感情移入してしまうのです。
彼の映画には、神話の神様が沢山、出てきました。
しかし、本当の神だったのは、レイ・ハリーハウゼンさん自身だったのです。
なぜなら彼は、本当に命あるものを創り出すことができたのです。