連載
映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ。】 第19回 映画惹句を飾る"造語"は、日本語の正しさよりもインパクトで勝負!!

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●映画惹句の造語を中心に、流行語大賞を選んでみよう。

なになに今年の流行語大賞は「神ってる」だって? はあ? 知らないなあ。どこの誰が、そんな言葉を使っているんだよ? 野球? そっち業界の人たちか。野球をはじめ、スポーツ全般は見るのもやるのも興味が無い筆者としては、遠い国の出来事みたいなもの。だったらこちらも、「映画惹句流行語大賞」でも選んでみますか。

 そもそも惹句の目的は映画を売ることだから、それに相応しい日本語をよく使う。で、相応しい日本語がない場合、国語辞典にない言葉を宣伝マンたちが作ってしまう。これを「造語」と称している。往年の東宝東和はこの造語作りに力を入れており、「造語を作らないと、宣伝部長に叱られた」といったエピソードまで残されている(詳しくは、拙著『映画宣伝ミラクルワールド』を読まれたし)。そんな「映画を売るために、考え出された」造語。さて今年の収穫は?


●"悪カワ"ヒロインといえば、彼女のことに決まっている。

 やっばり今年一番作品のキャラクターを表現した造語と惹句はこれかなあ。

 「史上最強の"悪カワ"ヒロインと10人の悪党たち」
             (『スーサイド・スクワッド』)

 『スーサイド・スクワッド』でひときわ目立っていたのが、ハーレイ・クインに扮したマーゴット・ロビー嬢の、クレイジーでセクシーなあの勇姿。それを「悪カワ」という造語でズバリ表すなんざ、ワーナーさんのセンスはなかなかのもの。

 正しい日本語なんてクソ食らえ。造語に必要なのは、とにかく読む者の記憶に刻み込まれるインパクトだ。その造語からイメージが膨らみ、映画を見たくなればそれで良し。時には造語が一人歩きして、世間で流行ったりするけれど、残念ながらそういう例は、この数年の映画惹句・造語には見られない。


●「エロ」+「キュン」の合体がもたらす興奮と効果。

 映画惹句に使われる造語を因数分解してみると、2つか3つの言葉を無理矢理くっつけたものが多いことに気がつく。例えば今年の作品であれば、これ。

 「ちょっと刺激的なエロキュンラブストーリー誕生!」
(『黒崎くんの言いなりになんてならない』)

エロキュン!! エロにキュンが加わることで、心臓の鼓動と共に股間のムラムラも誘発する、なんと妄想を誘う合体改造ワードだ!! しかもその後に「ラブストーリー」がつくから、女子を誘うのにも躊躇しないですむぞって・・・おい、本気にするなよ(笑)。


●漢字羅列造語は、ビジュアル的にも見栄えがする...かな?

 さらに造語のバリエーションを今年の公開作品からチョイスしてみると、日本映画に2つほど面白い例があった。どちらも漢字を並べて熟語を形成することで、「読めないけれど、なんとなく雰囲気は分かる」効果をあげているのと、読み方を強引に指定することで、映画の内容や世界観を知らしめてしまおうという例だ。

 「未体験の艶麗劇薬ファンタジー!」
( 『シェル・コレクター』)

 「地獄(ザイゴーグ)襲来!
      解き放て究極の力(ベータスパークアーマー)!!」
(『劇場版ウルトラマンX/きたぞ!われらのウルトラマン』)

 前者の場合、リリー・フランキー主演のミステリアスなファンタジー映画という、作品の個性を惹句で表しているわけだが、「艶麗劇薬」とは「エンレイゲキヤク」と読めば良いのかな? でもなんとなく、イメージとしては理解できちゃうあたりが面白い造語。しかも「ファンタジー」という言葉が続くことで、惹句そのものをまろやかな雰囲気に仕上げている。

 後者は、この映画独自の設定を惹句に込めた例。サイゴーグというのは怪獣の名称なんですな。それを「地獄」と表記することで、さも恐ろしい感じを狙っているのは分かるけど、「究極の力」を「ベータスパークアーマー」とルビを振っても、「ウルトラマンX」シリーズを知らない人にはさっぱりわや。まあ知っている人だけを対象にしているんだろうけど。


●映画惹句に使われる造語に込められた、祈りと戦略。

 結局今年公開された映画からは、流行語大賞の候補になるような造語は出なかったのは残念だ。確かに女性誌あたりが、さも「この言葉を作ったのは、私たちの雑誌ですよ」と、てめえが流行の最先端であることをひけらかす目的で作られた造語の類いと比べたら、つつましやかと言えるかも知れない。だが映画惹句に使用される造語の類いは、映画の存在を認識させ、たくさんの観客を映画館に呼ぶために作られた独自の言葉だ。「悪カワ」も「エロキュン」も、ひとりでも多くの観客にチケットを買ってもらうべく、宣伝マンたちが知恵を絞って考えた成果だ。そこに込められた祈り、背後にある宣伝戦略の存在を、決して忘れてはならないのだ。

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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