いけすかないけど何度も観てしまう『シーズ・レイン』
なんというか、実にいけすかない映画なのだが、なぜだか何度も観てしまうのである。
主人公たちは高校生なのに普通にバーでビール飲んでるし、出てくる家は全部豪邸だし、ろくに読めてもいないグレート・ギャツビーに触発されてその豪邸でパーティしちゃうし(高校生の分際で)、乗ってる車はクラシックカーだし(高校生の分際で)、観ていてまず意識させられるのは日本にはないとされていた階級というものである。
原作は平中悠一の同名小説。17歳で書き上げたこの小説で平中は文藝賞を受賞、小説家デビューしている。
舞台は、神戸や、阪神間と呼ばれる場所。主人公の高校生ユーイチは、同じく女子高生のレイコと、友達以上恋人未満の微妙な関係。そんなところに、ユーイチの幼なじみだったユウコがロンドンから帰国してきて三角関係になってしまう。一方、ユーイチの親友、タカノブがユウコに一目惚れ。ユーイチは、ユウコの気持ちに気づきつつも、タカノブに協力して、ユウコにタカノブを進めたりして、曖昧な態度を取ってしまう。かといってレイコに告白するでもなく。もうイライライラ!ユーイチはっきりしろよ。
でも、レイコとユウコのキャラクター付けがわりとわかりやすくて、レイコはわりと天真爛漫な性格、ユウコは、清純派だけど芯がしっかりしている感じで両極端、ここは観ている男の好みが分かれるところだろう。
この映画の白眉は、なんといっても、あの年齢の、あの頃だけの儚さみたいなものがうまく表現されているからじゃないだろうか。季節は夏で、青春だけが持つ様々な感情が思い出されて、「ああ、僕にもこんな気持ちを持っていた頃があったのだな」と思わされる。その象徴とも言えるのが、映画のピークで主人公役の染谷俊が歌う『同じ空を見ていた』。この歌は名曲で、エピック・ソニーの伝統を感じるものでもある。
あと、阪神間特有の独特の雰囲気をそのままフィルムに焼き付けているところ。僕は平中悠一先生の後輩で、西宮にある大学卒業なので、あのあたりの雰囲気のことは多少わかるつもりなのであるが、非常にあのへんの空気感をうまく詰め込んでいて、見るたびに懐かしくなる(筆者は現在東京在住)。なかなか一度住んだことがある人でないとわからないかもしれないけれど。でも、阪神間が、阪神大震災で一度崩壊した今、震災前の映像を記録したこの映画は、資料としても貴重だと言える。
さて、優柔不断なユーイチは、結局どうなったのか。それは映画を観てのお楽しみで。
(文/神田桂一)
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