もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第16回『マジンガーZ対デビルマン』

マジンガーZ対デビルマン
『マジンガーZ対デビルマン』
石丸博也,田中亮一,富田耕生,小林清志,里見京子,高久進,勝間田具治,登石隻一
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『マジンガーZ対デビルマン』
1973年・東映・43分
監督/勝間田具治
脚本/高久進
声/石丸博也、田中亮一、松島みのり、八奈見乗児、柴田秀勝、小林清志、富田耕生、田の中勇ほか

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 マニアックな低予算映画・劇場未公開映画を愛するあまり、周りの一般映画ファンと会話が弾まない読者の皆様、あけましておめでとうございます。と言いつつ新年一発目は珍しくメジャー作品、でも50歳以上のオッサンしか話題にしない懐かしのアニメです。昨年12月に放送開始50周年を迎えた矢先、主題歌を歌っていた「アニソンの帝王」水木一郎アニキの訃報を聞き、今回どうしても伝えたかった作品なのです。

 70年代の子供たちは季節ごとの長期休みに、特撮・アニメの5~6本立て興行「東映まんがまつり」を楽しみにしていました。劇場の回し者(言い方!)が下校する児童たちを校門前で待ち伏せし、割引券を配っていた風景もノスタルジックです。そんな1973年の夏休み直前、「東映まんがまつり」の演目を知った子供たちに衝撃が走りました。『仮面ライダーV3対デストロン怪人』『ロボット刑事』『キカイダー01』『バビル二世』『魔法使いサリー』といった人気作品の他にもう1本、ありえないタイトルが加えられていたのです。『マジンガーZ対デビルマン』!? 世界征服を企てるDr.ヘルの巨大ロボット・機械獣と戦うマジンガーZ。悪魔デーモン族を裏切り、妖獣から人間を守るデビルマン。どちらも永井豪の代表作にして不朽の名作。教室内が「マジンガーZとデビルマンが戦うらしいぞ!」とザワツイたのは言うまでもありません。

 異なる番組のキャラクター同士が共演するのはウルトラマン・シリーズや仮面ライダー・シリーズなどシリーズ物の定番ですが、それらは同一局の番組で世界観も地続きだからこそ可能でした。しかし『マジンガーZ』と『デビルマン』は共に永井豪原作とは言え、全く別の世界を描いた作品。しかも、これは子供たちが知る由もない大人の事情ですが、前者はフジテレビ系列で後者はNET系列。そんな状況下、幸いだったのが両作品のプロデューサーを東映動画の有賀健が務めていた事でした。テレビでやれない企画で子供たちの集客を考えた有賀プロデューサーは、初の劇場版・マジンガーZにデビルマンをゲストで出し、さらにマジンガーZを空に飛ばそうと永井豪に提案しました。そこは当時の古き良きユルサもあったのでしょう、NETは『デビルマン』が既に同年3月で放送を終えている事から企画の趣旨を快諾。局の垣根を越えた、異例にして異色の組み合わせが実現したのです。


 公開は1973年7月18日。岩礁に波しぶきが当たる東映マーク直後『マジンガーZ対デビルマン』とオープニングタイトルが入り、わざわざ「対」のロゴを光らせて強調するあたりが念入りです。光子力研究所を襲う機械獣軍団を倒したマジンガーZの前に見た事もない怪物が現れます。『デビルマン』の敵キャラ一番人気・妖獣シレーヌが蘇ったのです。するとシレーヌから逃げ惑う群衆にバイクで逆走する目付きの鋭い少年が「デビール!」と叫びデビルマンに変身! 我らが不動明です。『マジンガーZ』の世界にデビルマンが登場した歴史的瞬間でした(ジィ〜ン)。するとDr.ヘルはデーモン族の魔将軍ザンニンやシレーヌらに催眠光線を浴びせ、ちゃっかり部下にしてしまいます。Dr.ヘルに命令され「かしこまりました」とひざまずくラスボス級のザンニンは、デビルマン・ファンからすれば素直に容認できませんが(笑)、作品はあくまで『マジンガーZ』主導なのでやむを得ないでしょう。

 さて、不動明はマジンガーZの操縦者・兜甲児に「ウドの大木だな」。これにムカついた兜と不動のバイク対決が始まり、まずは前哨戦「兜甲児対不動明」です。互角の勝負に不動が「なかなかやるじゃないか」と認めるも「マジンガーZは空からの敵に弱い」。これには兜も「ガーン!」と痛い所を突かれ一言も返せません。公開前に第33話まで進んでいたテレビ版では、空飛ぶ機械獣に苦戦を強いられ飛行装備の必要性が問われていたのです。

 ここで作品にとってデビルマンと並ぶもう一つのセールスポイント、ジェットスクランダーが満を持してお披露目されるのです。それまでの巨大ロボットと言えば、どちらも横山光輝原作『鉄人28号』『ジャイアントロボ』のように背中のロケット推進装置で空を飛んでいましたが、このジェットスクランダーは別パーツの巨大な翼が飛んできてマジンガーZの背中にドッキングするという画期的なものでした。作品封切り後最初のオンエア(7月22日)、第34話「紅い稲妻 空飛ぶマジンガー」に先駆けたジェットスクランダー誕生エピソードを劇場で披露するという、テレビとの連動戦略だったのです。ちなみに映画公開前に20%を割り気味だった番組の視聴率が、ジェットスクランダー登場以降グングン上昇し、以降20%後半で安定していきます。

 さあ、ここからは怒涛の展開! 兜甲児の恋人さやかと弟シローのピンチを救った不動明が、兜の目の前でデビルマンに変身! 誰もが口ずさんだあの主題歌が掛かります(ジィ〜ン)。だがデビルマンは、かつて戦ったことのないメカニカルな機械獣に絶体絶命。すると今度はマジンガーZが機械獣を倒してデビルマンを救出! 燃える展開にジィ〜ン(こればっか)。さて、もうお気づきでしょうがマジンガーZとデビルマンは戦いません。東映らしいハッタリの効いたタイトルでした。当初永井豪は「マジンガーZがデビルマンを殺す」という案を考えていましたが(汗)、さすがに有賀プロデューサーはNETに忖度して却下したそうです。

 そしてラストシーンは数あるアニメ映画の中でも屈指の美しさ。テレビ版主題歌と同じ渡辺宙明作曲の新曲『空飛ぶマジンガーZ』が流れ出します。そのソウルフルな歌声は、もちろんアニキ。マジンガーZとデビルマンが、夕陽に映える富士山をバックに並んで飛んで行きます(ジィ〜ン)。飛行する二大ヒーローの雄姿をスクリーンで真横から観る。これぞ劇場版ならではの神アングルでした。

 奇しくも宙明先生と水木のアニキは、2022年にご逝去されました。心に届く雄叫びと勇壮なメロディ。我々に勇気とファイトを注入してくれた両雄のご冥福を心からお祈りいたします。

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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