巨匠が手がけたぬるくて偉大な元ネタ『奥様は魔女』
- 『奥様は魔女(字幕版)』
- フレデリック・マーチ,ヴェロニカ・レイク,ルネ・クレール
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先日開局したBS松竹東急では、平日の昼と夜に往年のシットコムドラマ『奥さまは魔女』(1964〜1972)を放送している。わざわざ録画してきちんと見るほどではないが、たまたまテレビをつけたタイミングで放送していると途中からでもそのまま見てしまう、8シーズンも続いた人気番組だったのもわかる楽しさだ。
しかしあまりにも知名度が高いがゆえに当然のこととして受け入れがちだが、魔女と人間男性の夫婦という設定は思いつきそうで思いつかない、相当にユニークなものだ。クリエイターとしてクレジットされているソル・サクス、なかなかのアイデアマンだな! と思ってちょっと調べたところ、元ネタとなる映画が2本あるという。1本は『媚薬』(1958)。もう1本は邦題がそのものズバリの『奥様は魔女』(1942)だ。あらすじを確認すると、どちらも魔女と人間男性のラブコメである。まるで『奥さまは魔女』日本語吹替版オープニングナレーション「ごく普通のふたりはごく普通の恋をしごく普通の結婚をしました。ただひとつ違っていたのは奥さまは魔女だったのです」、この部分のようではないか。
ということで邦題が同じ(正確には「さま」「様」表記が異なる)『奥様は魔女』を鑑賞してみた。数世紀前の魔女裁判で有罪となった魔女ジェニファーは、火炙りになる際に自分を訴えた男ウーリーに末代まで結婚がうまくいかない呪いをかける。時間は飛んで現代、落雷で復活したジェニファーは結婚を控えるウーリーを発見し、改めて嫌がらせを仕掛けようとあの手この手を繰り出すが、という展開。
先述のように本作はラブコメであり『奥さまは魔女』の元ネタであるわけで、この先どうなってしまうのかは誰でも予想がつく。その上、そこに至る展開のひとつひとつが実にのんびりおっとりしており、映画に刺激を求める方にはさほどおすすめできるとは思えないのだが、この緊迫感のなさも含めてまさに『奥さまは魔女』の元ネタだよな、と納得させられるのも事実だ。
なお、ソル・サクスが元ネタとして挙げているのはあくまでもこの映画だが、本作には原作もある。ソーン・スミスというユーモア作家の草稿シナリオ"The Passionate Witch"をノーマン・マトソンという作家が小説として完成させたものがそれだが、邦訳はなし。
というところで締めくくればよいのだが、『奥様は魔女』の監督はなんと、『巴里の屋根の下』『巴里祭』『リラの門』などで知られるフランス映画界の巨匠中の巨匠ルネ・クレールなのである。第二次世界大戦の戦火を逃れて渡米していた時期にハリウッドで監督したのが本作なのである。が、巨匠の作品にしてはちょっとぬるすぎるんじゃないの? と思えなくもなく、国に帰るまでのアルバイト感覚だったのかもしれないが、アルバイトが世界中で人気のドラマになったわけで、棚ぼたって本当にあるもんなんだな、と余計なことを思ってしまった。
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文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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