もしも、あの時。大人のパラレルワールド物語 『天使のくれた時間』

あの時、あの場所で、もしも違う選択をしていたら。ひとりの男が、人生において本当に大事なものとは何か、気付きを与えられる。そんな映画である。

冒頭、空港で銀行のロンドン研修に向かうジャック（ニコラス・ケイジ）を恋人が引き止めるシーンからはじまる。そしてすぐに場面は13年後へ。マンハッタンで大金持ちとして活躍しているジャックの生活に切り替わり、二人は別の世界を歩んだことが見て取れる。

成功のせいか嫌味な雰囲気ではあるが、根は優しい昔のままの彼だとわかるのは、コンビニで強盗事件が起こりそうになるのを止めに入るところ。危うく犯人となり人生を棒にふりそうだった青年に手助けを申し出る。「それより、あんたは何が必要？」「もうすべて手に入れたよ」「これから起こることは、あんたが招いたことだ。面白いことになるよ」と言われる。この発言の意味がわからないまま、眠りにつくジャック。翌朝、目をさました彼の隣にはケイトが眠っていて...。
そこは、昔別れたはずの恋人と結婚し、子どもたちと賑やかに暮らすパラレルワールド。もうひとつの世界で、戸惑いながらも家族と愛を深め、ジャックはふたたび人生の選択を迫られることとなる。ケイト役のティア・レオーニがチャーミングで聡明でとてもいいし、ニコラス・ケイジが右往左往する様子にクスリとさせられる。グッとくる言い回しも多く、上質で飽きない作品。きっと冬を温めてくれる。

（文／峰典子）