被害者遺族と加害者家族は何を語ったのか 池袋暴走事故7年間の記録

池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日
『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』
守田 哲
文藝春秋
1,980円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

 2019年4月19日、東京都豊島区で起きた「池袋暴走事故」。乗用車を運転していた飯塚幸三氏(当時87歳)が歩行者、自転車らを次々にはねて死傷させたこの交通事故は、いまだ記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。

 今回紹介する『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』は、TBSテレビの記者・守田 哲氏が事故当日から7年間におよぶ取材で得た、どのメディアも報じていない独自の記録をつづった一冊です。

 池袋暴走事故は、2人が死亡、8人が重症、2人が軽傷を負う大惨事となりました。本書では、ドライブレコーダー映像などから再現した事故の模様や現場の状況が克明に記されており、その恐ろしさを改めて認識させられます。

 この事故で妻子を失い、ある日突然、幸せな日常を奪われた松永拓也氏は、当初は絶望の淵に立たされ、自殺を考えたこともありました。警察やメディアの対応に不信感を抱くこともあったものの、次第に記者の守田氏と交流を深め、事故の再発防止のために遺族の現実を世の中に伝える決意を固めるようになります。

 被害者遺族がつらい心境なのは言うまでもありませんが、本書では加害者家族の声にも丁寧に耳を傾けています。本書によると、飯塚氏の長男は早い段階で、この事故の原因はアクセルとブレーキの踏み間違いだと考え、父に罪を認めるよう求めました。しかし、「車に異常があった」と主張する父を説得できず、苦悩したといいます。

 そしてもうひとつ、飯塚氏の家族を悩ませたのが、世間からの度重なる脅迫や誹謗中傷です。「世間は家族も同罪として白眼視する」という意味では、加害者家族もまたある意味では被害者だと言えるのかもしれません。

 けっして故意に起こすわけではない自動車事故。しかし、それによって失うものは計り知れません。松永氏の言葉は、ずしりと胸に響くものがあります。

「たった一瞬のミスで、これだけの多くの人が苦悩するんですよ。だけど、それは他人事じゃない。誰もが、真菜と莉子にも飯塚さんにも双方の家族にもなり得るんですよ」(本書より)

 本書には、被害者遺族と加害者家族が事故を理解しようと努め、対話するまでの経緯も記されています。

「世の中は悪意に満ちていると言ってしまえば、それで終わりだ。しかし、そこにあったのは、何とか人を信じたいという願いの交錯だったと感じる」(本書より)

 これ以上、自動車事故で大切な命が奪われないために、自分には何ができるのか。本書が一人ひとりの行動や意識を変えるきっかけとなることを願ってやみません。

[文・鷺ノ宮やよい]

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム