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【無観客! 誰も観ない映画祭#02】追悼・千葉真一~その2『海底大戦争』

海底大戦争
『海底大戦争』
千葉真一,ペギー・ニール,室田日出男,フランツ・グルーバー,アンドレ・ヒューズ,菅沼正,佐藤肇,佐藤肇
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『海底大戦争』
1966年・日米合作(東映、ラム・フィルム)・84分
監督/佐藤肇
脚本/大津皓一
出演/千葉真一、ペギー・ニール、室田日出男、フランツ・グルーバー、アンドル・ヒューズほか
米題『WATER CYBORG』

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 今年8月19日、新型コロナウィルスによる肺炎のため、不世出のアクションスター・千葉真一がこの世を去りました。ニュースやワイドショーで追悼特集を散々やっていましたが、紹介されるフィルモグラフィーは『キイハンター』、『仁義なき戦い』シリーズ、空手映画と柳生十兵衛役といった定番の作品ばかりでした。一般大衆向けの番組なので仕方ないですが、全国の千葉真一信者には「アレもコレも紹介されていない」と不満タラタラだった事でしょう。そこで当コラムのスタートは、テレビで触れてもらえなかった千葉真一主演作品を厳選してシリーズでお送りします。

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 1960年のデビュー以降、『新・七色仮面』(60年)や『宇宙快速船』(61年)などで子供たちのヒーローを演じてきた千葉真一が、大ブレイクするきっかけとなったテレビドラマ『キイハンター』(68~73年)。今回取り上げるのは、そこまでに至るはざまに出演していたマイナー作品です。

 監督は、千葉ちゃんファンで有名なクエンティン・タランティーノが絶賛するカルト映画『吸血鬼ゴケミドロ』(68年)の佐藤肇。劇伴(劇中BGM)は、図らずも千葉ちゃんの半年前に逝去した『キイハンター』の菊池俊輔。『仮面ライダー』(71~73年)、『タイガーマスク』(69~71年)、『ドラゴンボール』(86~89年)から『吉宗評判記 暴れん坊将軍』(78~02年)まで、数々の名曲で知られる劇伴音楽界(もちろん主題歌も名曲!)の巨匠です。

 ウリは海中シーンの特撮。登場するサイボーグ半魚人は、元ネタ『大アマゾンの半魚人』(54年)と同様、役者が怪物スーツを着て泳ぐ水中演技に挑戦しました。特撮作品は主に本編班と特撮班の二班体制ですが、この作品では水中撮影班が加えられた3班体制でした。潜水艦や魚雷などの水中戦は『宇宙快速船』から引き続き、特撮界の巨匠・矢島信男が迫力あるシーンで魅了してくれました。

 新聞記者の安部(千葉真一)は、米海軍が催す新型追跡魚雷のマスコミ公開試射に参加します。無人の模擬艦に命中させるところを生中継するのですが、モニターの画面を人型の黒い影が一瞬横切ります。そんな海中に人がいるはずもなく、会場は騒然となります。安部は恋人のカメラマン・ジェニーと共に、試射実験場になった海域に潜って調査します。ジェニー役のペギー・ニールは松竹の『宇宙大怪獣ギララ』(67年)でシャワーシーンを披露しましたが、ここではナマ脚を露出したセクシーな赤いウェットスーツを着用し、股の間を通したベルトがフンドシみたいで妄想を掻き立てます。

 ここで、いきなり画面に何者かの凄い寄り目がドアップで映し出されます。この「わ?」って感じの唐突さは、佐藤肇監督が得意とするビックリ演出です。銀色の肌は明らかに人間ではありません。それと交互に映されるジェニーは常に後ろから撮られている(水中物お約束の観客サービス)ので、まるでソイツが尻を凝視しているように見えます(笑)。やがてジェニーが背後を振り返ると、そこには銀色の鱗に覆われた半魚人! ボートに戻っている安部がいる海上へ慌てて逃げるジェニーの尻を、後ろから半魚人が追いかけます。

 実は1か月前、近海にある原子灰処理センター沖で漁船の乗組員が全員失踪する事件が起きていました。甲板には水かきの付いた足跡が残っていて、安部は怪物に結び付けようとしますが誰も信じてくれません。そこで安部とジェニーは証拠を得ようと再びダイブしますが、海底洞窟で3体の半魚人に囲まれます。ここで千葉ちゃんの鉄拳が唸るのかと思ったら、意外にもあっさりやられて捕まってしまいます。重い潜水タンクを背負っていたから? それとも一介の新聞記者だから? 2人が半魚人に連れて行かれたのは、マッドサイエンティストのムーア博士が支配する、9000メートルの海底に建造された秘密基地でした。

 ムーア博士は誘拐した漁船の乗組員たちを半魚人に改造して、原子灰処理センター沖に沈む核廃棄物の容器を盗み出させていたのです。目的は何と、水爆製造に再利用するためでした。半魚人の操縦はコントロール装置から発せられる極超音波で行われ、ダイヤルには「WORK」「FIGHT」「STOP」と4つしか項目がなく(あと1つは不明)、それぞれの目盛りに合わせると戦ったり停止したりするのですが、アバウトすぎです(笑)。半魚人は新型追跡魚雷の試射を見に来ていたハワード教授も拉致してきます。

 ちなみに、このサイボーグ半魚人は同年のテレビドラマ『悪魔くん』でヒレを追加され化石人ジュラタンとして流用されました。デザインは潜水艦、海底基地共にウルトラマンやウルトラセブンのデザイナーで有名な成田亨ですが、当時円谷プロと契約を結んでいた大人の事情により、スタッフ名は「武庫徹」でクレジットされています。

 さて、安部とジェニーに半魚人改造手術の第一段階が施されます。2人を入れたガラス容器に特殊なガスが流されると、顔の皮膚の一部が醜くゴツゴツになります。次に手術で海底適応できる内臓に改造され、恐ろしいことに男女の性別すらなくなるというのです。その頃、安部たち3人を捜索する米軍の潜水艦とムーア基地が戦闘状態に入っていました。その真下には核廃棄物の缶詰が大量に転がるゾッとする光景です。と思ったら、的を外しムーアた基地の水中ミサイルが核廃棄物の缶詰群に命中! 数十個の缶詰が吹っ飛び大量の放射能が漏れ出ていき、潜水艦のガイガーカウンターが「ガガガガ」とレッドゾーンを振り切ります。基地内に安部たちがいると感じた中佐は、威力弱めの魚雷をミサイル発射口にブチ込みます。

 だが想定外の大被害を基地に与え、これでコントロール装置が壊れて制御が利かなくなった半魚人たちが勝手に暴れ出し、職員たちと殺し合いになります。この騒ぎに乗じて逃げ出したハワード博士は、2人を手術台から解放します。生き残っている半魚人たちと千葉ちゃんが戦いますが、やはり超人的な強さは発揮せずピンチの連続です。ここぐらい見せ場を作ってやってもよいのではと思っていたら、最後の最後にやってくれました。脱出カプセルを巡って、千葉ちゃんとムーア一味の格闘が始まります。今度は普通の人間相手、名悪役・室田日出男を含む職員3人とムーア博士をパンチキックでブッ飛ばす千葉ちゃんに、ようやく留飲を下げました。

 作品は、ウルトラマンやゴジラ、ガメラなどで社会現象になった1966年の「怪獣ブーム」真っ只中、夏休みも迫った7月1日に公開されました。そして同年の12月21日には同じ佐藤肇監督、千葉真一主演で『黄金バット』が公開されましたが、残念ながら共に怪獣ブームには乗れなかったようです。

(文/シーサーペン太)

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酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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