もやもやレビュー

不便でも幸せ、そんな暮らしがいい『ぼくの伯父さん』

ぼくの伯父さん (字幕版)
『ぼくの伯父さん (字幕版)』
ジャック・タチ,ジャンヌピエール・ゾラ,アドリアンヌ・セルヴァンティ,ルシアン・フルジス,ジャック・タチ,ジャック・タチ,ジャック・タチ
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近代化が進むパリに後ろ指を指して、影でクククと笑うジャック・タチ監督の『ぼくの伯父さん』(1958年)を見ていると、生活のありかたについて考えさせられる。

映画のなかで対照的に映るのは、玉の輿をしてモダンな高級邸宅に移り住んだ妹(アドリアンヌ・セルヴァンティ)と、パリの下町に住む兄、ユロ伯父さん(ジャック・タチ)。

妹が暮らす邸宅の周りには、人の気配があまりない。ところが「そんなこと少しも気になりませんのよ」とでもいいそうなほど、彼女はかなり自分の家を気に入っている。何せドアも棚も窓もボタン一つで開閉するうえ、キッチンにはステーキをひっくり返すボタンまである。最新技術を一箇所に集めたスーパー便利ハウスなのだ。おかげで来客への自慢話が止まらないうえ、大好きな家からはほとんど出ない。フルーツさえ宅配でのお届けだ。

ユロ伯父さんの生活はまるで正反対。彼の家は特に広くも便利でもない。彼がずっと家にこもることもない。彼は毎日のように家の前に広がる店や屋台を歩き回り、もはや街がまるごと彼のおうちのようである。行き交う人と会話をしたり、彼を慕う妹の息子(アラン・ベクール)と悪ふざけをしたり......何があるわけでもないが、彼の生活からは妹の邸宅にはない温かさが滲み出ている。

機械的な生活に喜びを見出す妹と、街と生きることに喜びを見出すユロ伯父さん。あなたはどっち?そう問いかけてくるようにも思えた。

(文/鈴木未来)

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