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ムーミンの作者の魅力を知る『TOVE/トーベ』

『TOVE/トーベ』 10月1日(金) より 新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの物語が映画化された。本作はフィンランドのアカデミー賞(ユッシ賞)で作品賞を含む7部門を受賞する快挙を成し遂げている!

第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソンは自分を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を描き始める。やがて戦争が終わると、彼女は爆撃でほとんど廃墟と化したアトリエを借り、本業である絵画制作に打ち込んでいく。しかし、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、保守的な美術界との葛藤の中で満たされない日々を送っていた。
それでも、若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛、様々な経験を経て、自由を渇望するトーベの強い思いはムーミンの物語とともに大きく膨らんでゆく。
そんな中、彼女は舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちる。
それはムーミンの物語、そしてトーベ自身の運命の歯車が大きく動き始めた瞬間だった。

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ムーミンというキャラクターはミッフィーやバーバパパなどのように世界中にファンが多く、愛されているキャラクターである。
「ムーミントロール」という主人公の名前からも、妖精のたぐいとして作者トーベが作り出した架空の存在であることがわかる。作品に登場するニョロニョロというキャラクターはスナフキンが撒いた種から生まれるキャラクターであるなど、他にはない独特な世界観が魅力的で、子供より大人のほうが沼が深くハマると抜け出せない。物語の内容や登場人物の関係や設定が時代とともに変わっているのも面白さの1つだろう。

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ムーミンという作品自体、舞台化されたり新聞に4コマ漫画や挿絵として使われるなど枠にとらわれることなく幅広く自由に生きている。
それこそがトーべという作者の生き方をなぞっているようでもある。彼女自身、アーティストとして活動しその傍らの息抜きに創り出したのがムーミンというキャラクターやその仲間たちである。

本作ではムーミンについて深く語ることはなく、トーべという女性の魅力を知る103分となっている。劇中に登場する美術や衣装、登場人物のメイクなども細部までこだわり抜かれていてとても素敵だった。
鑑賞後、ムーミンについてもっと知りたいという気持ちになる作品であった。ちなみに、フィンランドにはムーミンパークがあり、フィンランド以外では初めてのムーミンパークが出来たのがなんと日本である。埼玉県飯能市にできた「メッツァ」はフィンランド語で森を意味する言葉で東京ドーム4個分の敷地に広々とムーミンの世界が広がっている。
キャラクターにも会えるようなのでムーミンの世界に散歩しにいくのも楽しいだろう。

(文/杉本結)

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『TOVE/トーベ』
10月1日(金) より 新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督:ザイダ・バリルート
出演:アルマ・ポウスティ、クリスタ・コソネン、シャンティ・ロニー、ヨアンナ・ハールッティ、ロバート・エンケル
配給:クロックワークス

原題:TOVE
2020年/フィンランド・スウェーデン/103分
公式サイト:http://klockworx-v.com/tove/
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