もやもやレビュー

21世紀に羊頭狗肉を行う愚かさ『THAT/ザット』

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 ジャケットには「スティーヴン・キング原作『IT/イット』に続く~」という煽り文句が記載されており、構図も『IT/"それ"が見えたら、終わり。』を思わせるものになっている。ゆえに特に意識せず「あぁ、関連作品なのかな」と思い視聴したが、縁もゆかりもなかった。そもそも原題が『BEDEVILED』であり、全然関係ない。従って本作はよくあるホラー作品ではあるが、別に誤認させて騙そうとしていた訳ではない、少なくとも制作した国では。映画配給会社が悪い。21世紀に羊頭狗肉なんてケチな真似をするから、衰退するのではないかとさえ思う。

 あらすじは、何者かに殺された女子高生から、友人たちにAI会話アプリ「ビー・デビル」の招待状が届く。そのアプリを使い始めた彼らに次々と不可解なことが起こり――というもの。登場人物はテディベア恐怖症だったり白人恐怖症だったり、ピエロ恐怖症だったりとさまざまな恐怖症を抱え、その人物が恐れているものの姿となって襲い掛かってくる。しかし、そういった恐怖症が一般的でない日本人としては「それは怖いのか?」となってしまう。作品自体は、主人公たちを襲う存在のアップや大音量でテンション高めな感じゆえに違和感が大きい。テディベアがアップになってもなぁ......。
 おまけに、ホラー映画のお約束である「バカな登場人物がバンバン殺される」というものでなく、主人公をはじめ皆さん地味だ。真面目な人間が真面目に暮らしていたところを理不尽に殺されるだけの内容で、爽快感は皆無。犠牲を払ってアプリを削除したものの、主人公の母親がアプリをインストールしたところで終わるため、バッドエンドである。ジャケットに騙されるわ、爽快感はないわ。何が楽しいのか。

 ちなみに、本作の米国での公開は2016年で、『IT』のリメイクは2017年。別にパクリという訳ではない。そういう訳でないと分かっていながらも、登場人物が恐怖を覚える姿で襲ってくるという設定が、『IT』を彷彿とさせ、パクった訳でもないのにパクリ映画のような印象を与える。邦題詐欺は本当に度し難い。

(文/畑中雄也)

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