もやもやレビュー

好きから芽生えるワークライフ『オール・シングス・マスト・パス』

オール・シングス・マスト・パス (字幕版)
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日本で「過労死」という言葉が生まれたのは、40年以上も前とされている。文字通り、これは働きすぎによる死。2016年には、一ヶ月で80時間以上の残業をする人の数が10,000にも達していたという。報告されないままなされていく残業もあると思うと、考えるだけで血の気が引く。

トム・ハンクスの息子、コリン・ハンクスが監督を務めるドキュメンタリー『オール・シングス・マスト・パス』(2015)の主役である大手CDショップのチェーン、タワーレコード社は、過労死という概念の反対側に立っているように思える。インタビューと当時の映像を織り交ぜて作られている本作では、創始者であるラス・ソロモンをはじめ、37年間タワーレコードと共に生きてきた最高執行責任者のスタン・ゴマン、店舗経営をしていたハイディ・コトラーやケン・ソッコロヴなどのみんなが、非常に明るい表情で当時の思い出を振り返っている。一緒に働く仲間たちはもはや家族のようで、とにかく毎日が楽しくて仕方なかったという。それはそうとも、ビジネスが拡大していく裏では、試聴機エリアでエッチをしてしまう人が多発したり、コカインをHand truck fuel (手押し車の燃料)と書き換えて経費で落としたり......など毎日がどんちゃん騒ぎだったのだから。

お祭り騒ぎがよしとされていたタワーレコードと普通の企業勤めの生活を比べるのには無理があるだろう。でも、タワーレコードの働き方からは、「好き」を見つけることの大切さがしっかりと学べる。仲間が好き、音楽が好き、社風が好き。彼らは、自分の「好き」をあたかも簡単に見つけることができていた。そして、「好き」を見つけられると「苦」は少しばかり和らぐのかもしれない。タワーレコードは2004年に破産、2006年にはアメリカでの店舗をすべて廃止している。元社員たちは、涙を浮かべながらその廃止について語った。

働きすぎの仕事から抜け出せないのは「好き」を見つけられないからだ、なんて決して言い切れない。でも、タワーレコードの社員たちを見ると、「自分にもほかの可能性があるのでは」なんて考えがふと頭をよぎるかもしれない。仕事を好きになるのもありかも、そう思わせてくれる映画である。

(文/鈴木未来)

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