もやもやレビュー

うまみ倍増だった『聖者たちの食卓』

聖者たちの食卓
『聖者たちの食卓』
ヴァレリー・ベルト,フィリップ・ウィチュス,---
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給食を食べていた頃から随分と年月が経ってしまったが、今でも時折その味を思い出すことがある。サラミサラダにかかっていた酸っぱいドレッシング。なぜかいつも残していたきなこ味の揚げパン。特別、美味しいとも不味いとも思わずに、6年間をやり過ごしていたけれど、やはりカレーライスは抜きん出た存在だったような気がする。

鉄板の給食カレー。あれが美味しいのは、やはり大量に作るからなのだろうか。調べてみると、やはり一理あるようだ。少量の調理だと鍋の地肌に当たる部分が増え、火のあたりが強く、うまみを壊してしまうのだという。それが大量になると、温度上昇が緩やかになり、酵素の活動時間が長くなる。野菜の糖分が分解されて甘みが出る分、うまみ成分が増していくそうだ。うん、うん。なんかカレーとかシチューとか、そんな類のものが食べたくなってきた。

『聖者たちの食卓』は、インド北西部にあるシク教総本山の「黄金寺院」を密着したドキュメンタリー映画である。ここでは、毎日10万食もののカレーを巡礼者や旅行者らに無料で提供している。10万食を有志の300人でつくるのだ。10万食...。これは、石原軍団の炊き出しや給食レベルではない。一体どんな風につくっているのだろうか、とても興味深かった。

本編にはセリフも音楽もない。露天風呂のような鍋に牛乳を流し込む。粉を練って、のす。ひたすらニンニクの皮をむく。チーム毎にわかれ、黙々と調理していく様子が描かれている。機械に頼らずどれも手作業なのだが、皆とても手馴れていて、気持ちがいいほどシステマティック。なんなら混ざってみたいとすら思った。完成したのは、直火でこんがりと焼かれたチャパティと豆カレー定食である。これはまちがいなく、うまみたっぷりに違いない。

(文/峰典子)

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