童貞時代の黒歴史を強制回想。『童貞。をプロデュース』
- 『不道徳教育講座 (角川文庫)』
- 由紀夫, 三島
- 角川書店
- 664円(税込)
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90年代に読んだ三島由紀夫のエッセー『不道徳教育講座』に「童貞は早く捨てるべし」という一章があった。三島一流の皮肉をたっぷりと用いた文章であったが、読了後の感想は「そんなもん、当たり前だろう」以外なかった。
当時はJCJKの援助交際華やかなりし頃で、ファッション雑誌を開けば「狼は生きろ、童貞は死ね!」という、雑誌の編集者とライターは童貞に親を殺されたのかと思うほど童貞に人権は認められていなかった。多分、あの時代の童貞は校内で大便をする小学生よりもバカにされていたと思う。人非人扱いどころの騒ぎじゃない。あの時代、若い女性に童貞の印象を訊ねても「気持ち悪い」と一刀両断。生まれた時から非童貞の男性はいないのですが......。
なぜ童貞は蛇蝎のごとく忌み嫌われるのか。その理由を知りたくて本作を視聴した。
内容は女性との人間関係を上手く構築できない2人を主人公にしたドキュメンタリー。彼氏のいる女性に恋愛感情を抱くK君(23)を描いた「俺は君のためにこそ、死ににいく」と、既に引退したアイドルに恋慕を焦がす余りグラビアのスクラップブックを自家製造してしまうU君(24)が登場する「ビューティフル・ドリーマー」の2部構成となっている。彼らを松江哲明監督が童貞脱出のため助力するというもの。
U君は実際に元アイドルの女性と出会いデートするが、彼女は退屈を隠そうともしない。しまいには「私は生身の人間なの」と言われてしまう。確かにアイドルは人間だが、文字通り偶像なのだからアイドルの彼女と実物は全くの別物だ。こういう人物は信仰する対象が宗教だったら敬虔な聖職者になっていたかも知れない。ゆえに、彼が童貞か否かは問題ないように思える。当人はどう考えるか知らないが。
問題はK君である。「愛がないとセックスはできない」「AVは汚い」とほざく口で「君の穴という穴をペニスで突き刺したい」と自作の歌を奏でる。なるほど、童貞が唾棄される理由はこういう輩がいるからなのかと納得。思わず画面をグーパンチしたくなる。当然、作中でもブン殴られている。言葉の一言一句が神経を逆なでるという、稀有な逸材である。身近にこんな人間がいたら、おそらく殺人容疑で逮捕されていたことだろう。
U君は好意的に眺められるが、K君は金属バットで後頭部にフルスイングしたくなるウザさがある。どうしてこんなにK君を憎むのか考えると、ほとんどの男性の童貞時代は大なり小なりK君のような部分があり、思わず自身の黒歴史を眼前で再現される不快さゆえなのだろう。
筆者はもうアラフォーで童貞は遠い過去の話だが、それでもやはり童貞という暗く絶望的な過去からは逃れられないのだと再認識させられた作品だった。
(文/畑中雄也)