引越しするはずの家族が宇宙へ飛び出す『ガラスの大エレベーター』
- 『ガラスの大エレベーター (ロアルド・ダールコレクション 5)』
- ロアルド・ダール,クェンティン・ブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,柳瀬 尚紀
- 評論社
- 1,320円(税込)
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人見知りで、国語と家庭科と図画工作が得意だった小学生のわたしにとって、校舎でいちばん落ち着く場所は、図書室だった。時には、体育の授業をサボって、図書室の窓から皆の様子を眺めつつ、だらだらと本を読むのがどんなに楽しかったことか。今の小学校事情は知らないが、当時は裏表紙の内側に小さなポケットが付いていて、貸し出しカードなるものが挟まっていた。クラスと名前を書き、受付で日付のスタンプを押してもらう。つまり、過去にその本を誰が借りたのか履歴がわかる仕組みになっていて、わたしはそれを眺めるのが大好きだった。いいなと思った本が、長年誰にも借りられていないことがわかると、掘り出し物を見つけだしたようで嬉しかったし、繰り返し読んでいる本に自分の名前だけが並ぶのも快感を感じた。ある種の変態だった。
小学校高学年でハマった作家のひとりがロアルド・ダールである。ブラックユーモアを効かせた短編小説や児童文学で有名なのだが、『チョコレート工場の秘密』 『父さんギツネバンザイ』『オ・ヤサシ巨人 BFG』など、ティム・バートン、ウェス・アンダーソン、スティーブン・スピルバーグらがメガホンを取った、映画化の常連でもある。
『チョコレート工場の秘密』を映画化した、ティム・バートン監督『チャーリーとチョコレート工場』をご覧になった人におすすめしたい一冊が、チョコレート〜の続編『ガラスの大エレベーター』である。後継者としてチョコレート工場で暮らすことになったチャーリーと家族が、引越しのためにガラスのエレベーターに乗り込むも、操作を誤って宇宙へ飛び出してしまう。話の大部分が宇宙を舞台に描かれるのだが、それもそのはず。この本が出たのは72年のことだから、アポロの月着陸があり、目下の宇宙ブームだったのだろう。設定はハチャメチャなのに風刺に富んでいて、家族愛にホロリとさせられる。ロアルド・ダールの本は時代を超えても色褪せない魅力があるので、今になって映画化が続くのも納得できる。そして、まだまだ名作は眠っている。映画化を狙っている監督は他にもいることだろう。
(文/峰典子)