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らくだに、思わずもらい泣き。『らくだの涙』

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 忙しい日々、せわしなく流れる時間、毎日の通勤電車。そんなものと無縁になりたいときにおすすめしたい映画がこちらです。

 ミュンヘン映像映画大学に通うモンゴルとイタリア出身の2人の学生による卒業制作として作られた本作(2003年)。サンフランシスコ国際映画祭で国際批評家賞を受賞し、世界各国の映画祭で大絶賛されました。

 舞台はモンゴル。ゴビ砂漠に暮らす遊牧民族の一家と、彼ら四世代と共に生活を送る、らくだを追うドキュメンタリーです。

 とても印象に残ったのが、二日がかりの出産で一頭の白毛のこどもを産んだ、初産の母らくだのエピソード。人間の手を借りるほどの大変な難産が原因だったのかはわかりませんが、産まれたばかりの子の面倒を母らくだは全く見ようとしないのです。子が乳を欲しがっても、拒絶。他のらくだの親子は、子が母の足元にまとわりつくように甘えている様子を見せているのに、この親子に限っては、悲しいほどに母が子を嫌がります。そうして徐々に衰弱している子が本当に哀れでした。

で、心配した遊牧民の家族が「伝説の音楽療法」を行うため、遠くの町から馬頭琴の演奏家を呼び寄せます。すると、馬頭琴の静かで優しい音色に包まれながら、母らくだの目から涙があふれ出てきたのです......。出産の辛さ、してあげたかったのにできなかった育児。本当は母らくだ自身が一番辛かったんだろうなと、色んな想いがこみあげてきます。そしてその様子を優しいまなざしで見守る遊牧民の家族に癒されます。

 やがて、母らくだと子らくだは、じょじょに心を通わせていきます。演技でないそのリアルさに、今度は私の目から涙がこぼれてきます。人間でも、らくだでも、親子の絆って何物にも代えがたいものですよね。改めてそう実感しました。それにしても、らくだに感情移入したのは初めてでした。 余談ですが、最近世間を騒然させた某作曲家(と呼んでいいのでしょうか)にも必要だったのは馬頭琴の音色だったのかもしれません。彼の耳に届くのか届かないのかも、もはや謎ではありますが。

(文/森山梓)

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