個性の中で光る没個性。『リトル・ミス・サンシャイン』
- 『リトル・ミス・サンシャイン [DVD]』
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個性がなくて悩んでます。個性がないと、初対面の相手に一発で覚えてもらえないし、飲み会とかで話しかけてもらえません。だから強烈な個性が欲しいんですが、かといって目立ちすぎるのも苦手なので、どうしたもんかと悩んでいます。そんな折に、『リトル・ミス・サンシャイン』を観ました。
主人公は、ブスでぽっちゃりの女の子・オリーブ。彼女が憧れの美少女コンテストに出場することになり、家族総出で一路カリフォルニアを目指すところから物語が始まります。しかしこの家族というのが、強烈なキャラ揃いでして。
独自の「勝ち馬理論」を提唱するワンマン系お父さん、ヘロイン中毒で老人ホームを追い出されたエロじいちゃん、ニーチェに触発され、無言の誓いを立てる思春期の兄、職と恋人を失った絶望感で、自殺未遂を図ったゲイで学者の叔父。オリーブのメガネでぽっちゃりでブスという要素もまた、個性でしょう。
そんな中で唯一、真っ当なキャラクターなのがお母さんです。劇中でお母さんのバックグラウンドは語られないのですが、冒頭、仕事帰りに叔父を病院に迎えにいくシーンで名札を着けているので、何らかまともな組織の勤め人なのが分かります。見た目も普通の主婦です。でも、ハチャメチャな家族を取りまとめていたのは、他でもない、平凡キャラのお母さんだったわけで。
たとえば、家族との旅を拒否するお兄ちゃんを動かした、絶妙な交渉術。自分本位なお父さんを非難しつつも、最終的にはやりたいようにさせる、懐の深さ。ミスコン会場に到着し、ほかの出場者とのレベルの差を目の当たりにしてオロオロする男性陣に対して、「ここまで来たんだから、オリーブをコンテストに出す」と言い切る、判断力と意思の強さ。没個性キャラのお母さんだからこそ、強烈な個性の持ち主たちと対峙しても、ニュートラルに接することができるんだなって思いました。もしこれがシンディ・ローパーみたいなお母さんだったら(見た目がという意味で)、個性同士がぶつかってしまって、まとまるものもまとまらなかったでしょう。何故ここでシンディ・ローパーが例に出てきたかは分かりませんけど。
あらゆる個性が集結した組織でこそ、没個性が偉力を発揮する。そして没個性も貫けば個性になるんだということを、教わった気がします。
(文/ペンしる子)