『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を観て、自分の悩みはちっぽけだと思った。
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冬休みの予定がありません。忘年会もとうとう呼ばれませんでした。涙はもう出ません。口内炎ができました。
主人公は、共産主義体制下の東ドイツで生まれた青年、ヘドウィグ。自由の国・アメリカに渡るため、米兵の恋人との結婚を決意するが、性転換手術に失敗し、股間の傷跡には"アングリーインチ(怒りの1インチ)"が残ってしまいます。結局、恋人は自分のもとを去り、ヘドウィグはかつての夢だったロックシンガーとして成功すべく行脚を開始。そこで、ロックスターを夢見る17歳の少年・トミーと出会い恋に落ちるのですが、ヘドウィグが元男性であると知ると、トミーもやはり彼女を捨てただけなく曲を盗作し、超人気スターにのし上がっていきます。ヘドウィグはトミーの全米ツアーを追いかけながら、自分の"片割れ"を探し、真実の愛を求めていきます。
物語のベースとなり、ヘドウィグの原動力となっているのは、プラトンによる「愛の起源」。"その昔、人間には3つめの性、男女(アンドロギュノス)が存在し、顔が2つ、手足が4本あり、力強く驕慢だった。そのため神々への反抗を恐れた主神ゼウスは、これを2つに切り裂き、一対の男と女に分けた。これが愛のはじまり。人間が愛を求めることは、かつて一体であった自分の片割れを探すためであり、エロスは人間本来の形に戻ろうとする衝動なのだ"と。つまり男でも女でもなくなってしまったヘドウィグは、"片割れ"を探す術を、物質的には失ってしまったわけで。そう考えると、なんだか切なくなってきます。あああ、年末気分で浮かれるリア充たちに言いたい。「それ、本当にお前の片割れか? だとして、そいつが本当に自分の片割れでいいのか?」と。鼻と鼻、5ミリの至近距離で。
というか話が反れましたけど、ちょっと待ってください。そもそも、性転換手術に失敗って。しかも、あと数年我慢すれば、ベルリンの壁崩壊によって普通に自由の身になれたのに、っていうタイミングで。絶望的じゃないですか。あげく恋人にはガンガン騙されて捨てられて、作品もパクられるとか、完全に人間不信になります。もし自分の身に現実に起こったら、絶対に立ち直れません。口内炎できたとか、親指のささくれを剥いちゃいけない領域まで剥いちゃってすげー痛いとか、忘年会誘われてねーとか、そんな悩みはもう全然ちっちゃいよ! ちっちゃい、ちっちゃい! どーでもいい! 友達がいないっていう悩みはどーでもい...くはないけど、全体で見れば全然ちっちゃい方に入るはずだよ! と自分を説得させているうちに、枯れたはずの涙が再びこぼれてきましたが。
自分の抱えている悩みの大半が、俄然ちっぽけに思えてくる映画です。
(文/ペンしる子)