「リア充ザマァ!」と喝采をあげる自分の潜在的変態指数が心配になってくる『スリーピング タイト』
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犯罪映画の中には犯罪者側に感情移入してしまうような作品がありますが、プロレス界でもヒールなのに何故か憎めない、応援したくなるタイプの選手が存在します。そこで今回のお題は、主人公が真性クズのド変態ストーカー、なのに何故か応援したくなってしまうというスペイン生まれのサイコスリラー『スリーピング タイト』(2011)。
とあるマンションの住み込み管理人セサルは、住人の独身女性クララに異常な愛情を抱き、合鍵で部屋に侵入してはベッドの下に潜み、薬で昏睡させ、本人の知らぬ間に肉体関係を結ぶという真性のド変態。しかし、いつものようにベッド下に潜り込んだある日、クララが彼氏を部屋に連れ込みベッドで一戦おっ始めたことから事態はまさかの急展開へ。果たしてド変態セサルの運命は・・・という内容。
プロレス界における異常者ギミックは割りとポピュラーなんですが、性倒錯者設定のゴールダスト、(新しい自分を解放するため)女性ドレスに身を包んだヴィトーなどは自己完結型のため余り害が無いタイプ。本作の主人公セサルのような他人に害を与えるド変態ストーカーとなると、精神異常の設定を持つケインでしょう。
マット・ハーディーの恋人だったリタを拉致監禁し、無理矢理結婚。さらに妊娠させるという本作の内容にも重なりますが、そのあとリタがエッジと浮気したことで、異常者のケインが応援される立場に変わって行くのもまた然り。
この「支持すべきでないものを支持してしまう」要素が本作のキモなんですが、セサルは確かに不遇な境遇にあるものの、一貫して自分勝手に真っ黒な違法行為を繰り返す性犯罪者として描かれています。
ところが一途な愛と一生懸命に変態活動に勤しむセサルの姿を見続けたせいか、クララが男を部屋に連れ込んで案の定の展開になるや、「この尻軽、なに男連れ込んでだよ!」と罵り、セサルが必死にベッド下から脱出を図るシーンでは、「今だ!行け!」「そんなの良いから早く逃げろ!」などとセサルを応援しているわたくし。
こうなると被害者クララはタダの天然スイーツ、彼氏はクソリア充にしか映らず、あとはエンディングまでセサルが上手いことやる(犯罪を犯す)度にほっと胸を撫で下ろすように。
プロレスの場合、変態ではないけれど、似たような性質のギミックで人気者となったのが故エディ・ゲレロでした。
甥チャボ・ゲレロと組んだユニット「ロス・ゲレロス」で、「Lie! Cheat! Steal!(騙してズルしてイタダキ)」をモットーに、対戦相手やレフェリーを欺き、嘘のケガや意表を突く行動(足を掴まれたら、シューズがスッポ抜けるように紐を解いておくなど)で勝利をかすめ取るスタイルが大ヒット。
ルール的には反則行為で勝ってるので本来はブーイングを浴びるべきところなんですが、エディのトンチを利かせたズル勝ち戦法に多くのファンが喝采を上げました。
エディのような憎めない系ヒールは結果的にベビーフェイスに転向しますが、本作のセサルは最後まで変態を貫きます。オチまで含めて最高に後味が悪いハズなのに、ド変態を応援しちゃった自分の潜在的変態指数が空恐ろしくなる、そんな作品です。
(文/シングウヤスアキ)