『フラッシュ・ゴードン』とはプロレス的にいえばアルティメット・ウォリアー的超大型珍作である
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しゃべるクマのぬいぐるみのコメディ『テッド』(2012)の作中に登場した作品といえば『フラッシュ・ゴードン』(1980)。筆者の場合、Queenの主題歌から知ったクチですが、実際に本作を観れば「話題になってたけど実際、珍作だよね」と衝撃を覚えるハズ。そしてやはりプロレス界にも似た感情を覚える輩がいるワケです。
その前にひとまず本作の概要ですが、古典アメコミを原作にしたSF冒険活劇で、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』と同時期に公開されたため、便乗ヒットを飛ばしたそうな。
人気アメフト選手フラッシュ・ゴードンは休暇旅行のため、添乗員の美女デイルと共に小型飛行機で移動中、銀河皇帝ミンによる地球への隕石攻撃の影響でとある場所に不時着。そこは地球消滅の危機を予見していたザーコフ博士の研究所だったため、その場の流れで用意されていたロケットでミンの惑星へ突撃!
しかし、到着早々拘束され、死刑宣告を受けてしまったフラッシュ。皇帝の娘の協力で別の惑星へ逃亡すると、囚われたデイルと地球を救うため、新たな仲間たちと共にミンに闘いを挑む・・・
という筋書きからしてアレですが、古臭い特撮技法とチープな演出にキャスト陣のシュールな演技、さらにゲイ・コミュニティ特有の色使いと装飾に彩られたトンデモなセットや衣装など、2000万ドルとも4000万ドルといわれる巨額製作費が無駄に注ぎ込まれたことがハッキリと判る本作。Queenが担当した音楽が唯一の救い、などと散々の言われようです。
さて、この珍作をプロレスに喩えると「ショッパイ(下手な)くせにプッシュを受ける超大型新人」。WWEではマクマホン会長が好むとされるマッチョなパワーハウス系選手がこの枠に起用される傾向にあり、近年ではライバックがこのパターンですが、本作と肩を張れる逸材は「アルティメット・ウォリアー」だけでしょう。
ウォリアーは1987年にWWE(当時WWF)デビューし、インターコンチネンタル王者でありながら、当時の大エース、ハルク・ホーガンからWWF王座を奪取し二冠を達成した業界の偉人。
一方で、持ち技は5~6個のみでほとんどの試合が8分以内(それ以上はスタミナが持たない説が根強い)という、プロレス界でも五指に入る"塩(下手な)レスラー"として語り草になっており、要は「人気者だったけど実際、塩だよね。"ソルティ"メット・ウォリアーだよね」ということなのである。
ただ、本作やウォリアーは決して"忌むべき珍作"ではないのです。
序盤の珍妙アメフトバトルや『テッド』でも再現された飛行スクーターのシュールさ加減や、エンディング間際のフラッシュのジャンピング勝利ポーズなどコミックのコマ割りを再現したかのような滑稽なカットなど、本作の開き直った作風が逆に好意的評価が繋がっているのも頷けるところ。
対するウォリアーも2008年以来大きな試合出場がないようですが、全盛期と同じパフォーマンスとファイトスタイルで、ファンが抱くウォリアー像を壊さぬ努力を怠らなかった姿はレスラーの鑑ともいえます。
突き抜けていれば"キレイな珍作"として愛されるという代表例。それが『フラッシュ・ゴードン』であり、『アルティメット・ウォリアー』なのかもしれません。
(文/シングウヤスアキ)