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プロレス×映画

マンネリ? ベタ? 否!ホラーもプロレスも「お約束」がやっぱり正義です

スペル Blu-ray
『スペル Blu-ray』
アリソン・ローマン,ジャスティン・ロング,ローナ・レイヴァー,ディリープ・ラオ,デヴィッド・パイマー,アドリアナ・バラッザ,サム・ライミ
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 映画における「お約束」シーンや演出は、作品の代名詞や監督の色であったりするワケですが、ホラー物に至っては作品自体が「お約束」で成立しているケースが多いのはいわずもがな。
 今回のお題となる『スペル』(2009)は、スプラッター・ホラーの火付け役『死霊のはらわた』(1981)で長編デビューを飾ったサム・ライミが、スパイダーマン旧三部作で大物監督に出世した後に手掛けた、原典回帰的作品【※】。

 融資担当の女性銀行員が昇進のために、返済期限延長を求めるバア様を切り捨てるも、逆恨みで呪いの呪文をかけられ、怪奇現象の数々に苦しめられる・・・という内容で、シリーズを重ねる度にコメディ色が強くなった『死霊のはらわた』とは一線を画する、純ホラー作品。でも真面目だからこそ笑いのツボを刺激する「お約束」が炸裂!

以下に列挙すると・・・
■ズームアップで目の動きを頻繁に強調(しつこい、本当にしつこい)
■怪しいヤツはもれなく目が白い(サム・ライミといえばコレ)
■取り憑かれるとだいたい宙に浮かぶ(ワイヤーアクション!)
■そして踊る(概ね失笑を禁じ得ない)
■無駄に汁気が多い(血の量や謎の液体の量)
■何かしら口の中に入ってくる(虫とか汁とか腕とか)
■墓を掘るか埋めるシーンがある(埋める・埋まってる対象に襲われる)
■危機に陥ってもピンピンしてる主人公(本作最後はアレだけど)

 そこに来てプロレスはといえば「お約束」無くしては成立しない、ホラー映画以上に「お約束」が幅を利かせる世界。十八番の台詞(とポーズ)から得意技に持ち込むパターンと、それに対して観衆が台詞を合唱するのは、定番の"オフェンス"系「お約束」。ですが、その逆に"やられ"系「お約束」もあります。
 例えば、受け身の達人として知られるリック・フレアー御大。コーナーポスト上から飛び技を狙っても、相手が起き上がってデッドリードライブで投げ捨てられるのが「お約束」。御大の飛び技が成功した時の方がレアなのに何故か残念な気分になるほど。ライミ作品だったら取り憑かれてるのに目が白くなかったり、宙を浮かばなかったらガッカリするはず。

 最後もありがちな勘違いが原因で幕を閉じる辺りは「中身確認しとけや!」とツッコミたくなりますが、プロレスでも背後から奇襲を受けそうな選手に対して観衆が「志村、後ろ!」的に教えたところで、その選手はまんまと被弾することがほとんどでしょう。だってそれが「お約束」なのだから!
『ガントレット』&『16ブロック』の記事では「お約束」の前提があるからこその「ミスリード」に触れましたが、本来は「お約束」はそのまま遂行されることが「正義」なのです。多分。

 ちなみに、2013年には『死霊のはらわた』のリメイク版が公開予定(サム・ライミは脚本と製作)ですが、あくまで真面目一辺倒なホラー作品になる模様。トレイラーを観る限り「お約束」シーンも再現されているようですよ!

(文/シングウヤスアキ)

※脚本自体は『スパイダーマン』シリーズを手掛ける以前に、実弟アイヴァンと共同で書き上げたそうで、大物監督になったおかげで結果的に『スペル』を大作ホラー映画として仕上げることが出来たそうな。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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