『クイズ・ショウ』で連想する「信頼」を揺るがした「モントリオール事件」
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今回のお題は、1950年代のアメリカで実在した人気クイズ番組の舞台裏で起こったスキャンダルを映画化した『クイズ・ショウ』(1994年)。
「冴えないダサ男が王者じゃダメよ。You、イケメンを新王者にしちゃいなよ」的なスポンサー勅令を受けた番組プロデューサーが、王者入れ替え工作を実行。視聴率維持のため八百長が常態化する中、干されたダサ男が大陪審(裁判前に陪審員による審査の上で起訴すべきか判断する)で八百長を暴露も、訴えはもみ消され番組は続行。真相に近付く新聞記者が証拠を集め、再び大陪審に持ち込むのだが......というもの。
TV番組の内容を巡って大陪審で審議されるという驚き。また、制作側の大人の事情が幅を利かせ始めた時代のスキャンダルでありながら、現代にも通じる番組への信頼性に関わる問題であることにも気付かされます。
筋書き前提のWWEにも、リアルなスキャンダルはあります。トップ同士の大きな試合になると、結末を決めるのにもそれ相応の信頼関係が必要です。ここがプロレスの良心であったりしますが、その「信頼」を揺るがしたスキャンダルが「モントリオール事件」でした。
1997年、WCWとの視聴率戦争に負け続け、財政難に陥ったWWE(当時WWF)は、20年契約を結んだばかりのブレット・ハートに対してWCW移籍を打診。ブレットは悩んだ末に従いますが、所属最後の試合(WWF王座戦)で、犬猿のショーン・マイケルズ相手に地元モントリオールで負けることだけは拒否。その結果、会長との間で、部外者乱入による不透明決着という形で同意がなされ、試合直前まで円満ムード......でした。ところが本番では、マイケルズがシャープ・シューター((ブレットの決め技)を決めた瞬間に、レフェリーが試合終了を宣言するという、信頼を踏みにじる裏切りに遭うことに【※1】。
当時、たまたまブレットに密着取材がついていたため、打ち合わせの証拠音声や事件直後のバックステージの様子など騒動の一部始終が明らかになりました。そのためこの『モントリオール事件』は、今も語り草となる大スキャンダルとなっています【※2】。
しかし、正直者はなんとやらで『クイズ・ショウ』では、疑惑の追求を受けるイケメン君とその家族は平穏な生活を取り戻すために自ら八百長を告白したものの、以前の教職に戻ることも出来ず、世間から後ろ指をさされるハメに。
対してWWEのブレットも、旧来のプロレスヒーロー像にこだわる余り、「ワルい奴が人気者」路線のWCWでも大きな活躍は出来ず、WWEに残留した弟オーエンが、試合入場時の転落事故で命を落とすという悲劇まで......。結局、ブレット自身もケガによる長期欠場が響き、解雇・引退へ。
一方、ブレットの信頼を裏切ったマクマホン会長は、この事件を機に"悪の会長"として開眼。オースチンやロック様、DXとの抗争を繰り広げたことで、空前のWWEブームに発展しました。
しかし、ここ数年は家庭向け路線に再転換したことで、ブレットとマクマホン会長、マイケルズは和解を果たし、RAWやPPV大会のゲストとして登場するまでに関係改善しています。そういう意味でも、超モヤモヤする『クイズ・ショウ』の結末よりは幾分マシかも。
(文/シングウヤスアキ)
※1 ブレットの前にWCWへ移籍したメデューサことアランドラ・ブレイズがWCWの番組中にWWF女子王座のベルトをゴミ箱に捨てるパフォーマンスを行ったため、虎の子のWWF王座で同じことをされるのを恐れた会長が強行策に出たとされる。
※2 事件前後のブレットに密着したドキュメンタリー映画『レスリング・ウィズ・シャドウ』。WWFへの愛情が憎悪に変わっていく過程や事件直後にブレットの鉄拳制裁を食らってヨレヨレの会長の姿や、何も知らなかったとシラを切るもブレットの奥さんにドヤされてしょぼくれるマイケルズやトリプルHの姿などが収められています。