インタビュー
映画が好きです。

VOL.53 飯塚健監督

『ステップ』は、観た後、家族に確実に優しくできる映画

家族の再生を描く小説「ステップ」(著/重松 清)。映像化のオファーが絶えない中、雑誌「中央公論」での連載終了から10年が経った今年、山田孝之主演でついに映画化されました。監督を務めたのは、原作の大ファンで自ら映画化を熱望したという、飯塚 健監督。今回は飯塚監督に、本作で3度目のタッグとなった主演の山田さんについてや、撮影の裏エピソード、さらに監督自身の好きな映画についてもお伺いしました!


――作品の映画化にあたって、原作者の重松さんに直接お手紙を書かれたとのことですが、そのときの心境や、映画化が決まったときの心境をお聞かせください。

飯塚監督(以下、省略):どの作家さんも自分の身を削って書いた作品ですから、結局脚本が面白くなかったら却下すると思うんです。だから、僕は承諾を頂く前に、手紙と脚本を書いてお渡ししたんです。話自体は今と変わらない骨格なんですが、お渡ししたのは初稿の段階でした。脚本を読んでいただき承諾していただいたのは、とっても嬉しかったですね。また、重松さんに『荒川アンダー ザ ブリッジ』も好きだとおっしゃっていただけたことも、嬉しかったです。

――監督にとって本作『ステップ』はどんな1作になったでしょうか。

めちゃくちゃ大事な1本です。撮影の時は40歳でしたが、その3年くらい前から「40代の1作目で何を撮るか」ということをかなり考えて準備をしていたので。一番いい時期に、良い主演を迎えて撮れたので、次のステージのつながる作品になったと思います。


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――主演の山田孝之さんは、最近では『全裸監督』など濃いキャラクターを演じているのが印象的ですが、本作ではそのイメージを全く感じさせない、良い意味で普通の男性に見えました。監督が本作の撮影を通して知った山田さんの魅力とはどういった部分でしょうか。

そう思ってもらえるように作ろうと思いました(笑)。本当にいい企画でしたね。これ、褒め言葉なんですけど、彼は非常にややこしいんですよ。それは、本気で向き合うから、まわりがうかつに声をかけられない次元で。もちろんそれでいいんですが。本作では大切な人を亡くして1年半経ってからの再出発を描いている。山田君は1年半のことを抱えて、1ヶ月半演じてくれましたから。大変だったと思います。

――劇中で使われている絵本「さよならズック」は監督が作られた絵本ですね。本作で使おうと思ったきっかけなどはありましたか?

自分の宣伝みたいになって嫌だなって、最後まで悩んだんです。ですが、中身も作品に沿っているんじゃないかという話になって。亡くなった奥さんの靴、自分だったら全部は捨てられないなって思うんです。でも全部取っておくのは気持ち悪い。成長とともに、美紀の靴も増えてくる。その中でも捨てられない靴は必ずあってほしい。うちはまだファーストシューズを捨てていないんですが、いずれ捨てると思うんです。それは家の成長だと思います。そういった靴の描写が、テーマとして合っているなと思いました。

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――広末涼子さん演じる奈々恵さんが去り際で足をぶつけるシーンは、監督からのお願いだったそうですが、ほかにも劇中で監督が特にこだわったシーンはありますか?

最後に、病院で広末さんに雪うさぎに触れてもらうシーンはこだわりました。あの病室にいるだけで、ある種、彼女にとっては十分なんですよ。でも、僕はぜんぜん十分じゃないと思っていて、広末さんに「あそこで奈々恵さんが動いてくれないと、映画が終わらない気がしている」と話したんです。でもあそこで動くのは難しくないかって話になって。色々話し合いながら、雪うさぎがあるってことだけを言い残して本番の撮影を行ったんです。そしたら広末さんが、雪うさぎを少し動かしてくれて。「映画を撮るってこういうことだよな」って実感しましたね。

――ところで、監督ならではの映画の楽しみ方ってありますか?

こだわりは、家だったら確実にベスポジがあるじゃないですか。映画を見るなら、子供が保育園に行っている時間。半径50センチ以内に、必要なもの全てに手が届く状態で見ますね。家の場合、ビールは欠かせないです。

――監督を目指すきっかけになった1本は?

デビューからずっと言い続けているのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ですね。映画として最強だと思っています。めちゃくちゃおもしろい。もちろんしんみりしている映画とかも好きなんですが、笑って泣けて、コーラとポップコーンいけるってすごいじゃないですか。笑って泣けるまではよくあるんですけど、コーラとポップコーンもいけるってすごいですよね。『ジュラシック・パーク』とかはポップコーン食ってる場合じゃなくなってくる、びっくりしますしね(笑)。例えば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のエンジンがかからないシーン、みんな「かからない」って予想できるのに、ハラハラできる。それって最高だなって思います。

――最近見た映画でお気に入りのものはありましたか?

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ですね。素晴らしい映画です。家族を失った男の喪失と再生を描いている。そういう意味でいうと、『ステップ』と似ているかもしれないです。癒えない痛みをずっとかかえて生きていかなきゃいけない。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、それがちょっと自分のせいでもあるんですが。

――本作をどんな人に観てもらいたいでしょうか。また映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いいたします。

いろんな世代の方が見ても楽しめる作品になっています。家族と観に行くことも嬉しいですが、お一人で観に行っても、帰ったその日は家族に確実に優しくできる映画なので、ぜひ楽しんでください。


――飯塚監督、ありがとうございました!

(取材・文/トキエス)

【STORY】
結婚3年目、30歳という若さで妻に先立たれた健一。妻の父母は、娘の美紀を引き取ろうかと言ってくれたが、健一は自分の手で育てることに決める。妻と暮らした、妻の気配が当たり前のように漂う家で。始まったのは残された僕と娘、そして天国にいる妻との新しい生活。保育園から小学校-卒業まで、様々な壁にぶつかりながらも、前を向いてゆっくりと<家族>への階段を上る。泣いて笑って、少しすずつ前へ──。


***

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『ステップ』
公開中!

監督・脚本・編集:飯塚 健
原作:重松 清「ステップ」(中公文庫)
出演:山田孝之、田中里念、白鳥玉季、中野翠咲、伊藤沙莉、川栄李奈、広末涼子、余 貴美子、國村 隼 ほか
配給:エイベックス・ピクチャーズ

2020年/日本映画/118分
公式サイト:www.step-movie.jp
(C)2020映画『ステップ』製作委員会

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飯塚健(いいづか・けん)

1979年、群馬県出身。2003年、石垣島を舞台にした群像劇『Summer Nude』でデビュー。若干22才で監督をつとめたことが大きな反響を呼んだ。以後、『放郷物語』(06)、『彩恋 SAI-REN』(07)など青春の切なさを生き生きと描く映像作家として頭角を現す。また、『FUNNY BUNNY』を始めとする演劇作品、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやOKAMOTO'S、降谷建志らのMV、小説、絵本の出版と、活動の幅を広げる。代表作に『荒川アンダー ザ ブリッジ』シリーズ(11 ドラマ、12 映画)、『風俗行ったら人生変わった www』(13)、『大人ドロップ』(14)、「REPLAY&DESTROY」(15 ドラマ)、『笑う招き猫』シリーズ(17 ドラマ、映画)、『榎田貿易堂』(18)、『虹色デイズ』(18) など多数。2019年12月にはブルーノート・ジャパンとの前代未聞のプロジェクト、会場一体型コント劇「コントと音楽 vol.1 / 振り返れない」をモーション・ブルー・ヨコハマにて開催。また、2020年6月には映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(主演・田中 圭)の公開が控えている。

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