インタビュー
映画が好きです。

VOL.49 石川慶監督

「とにかく音を楽しんでほしい」……音楽そのものを楽しめる映画『蜜蜂と遠雷』。監督が込めた思いとは?

史上初の直木賞&本屋大賞をW受賞し、映像化不可能とまで言われていた傑作小説「蜜蜂と遠雷」がついに実写映画化! 今もっとも注目を浴びていると言っても過言ではない松岡茉優を主演に迎え、松坂桃李や森崎ウィンなど、実力派俳優たち、さらに注目新人の鈴鹿央士が競演しています。素晴らしい原作とキャストが揃った本作のメガフォンをとったのは、『愚行録』で長編監督デビューを飾った石川慶監督。今回は、石川監督に本作製作にあたっての裏話や好きな映画についてお伺いしてきました!


――映像化不可能とまで言われた小説を映像化するにあたって、感じたプレッシャーなどはありましたか?

石川慶監督(以下、省略):そうですね。恩田陸さんの原作ってだけでも大きかったですし、全てがプレッシャーでしたね(笑)。

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――映画化した作品を見て、恩田さんが「参りました、を通り越して やってくれました」とコメントを出していましたが、改めて先生の心境を聞いていかがですか?

嬉しいですし、本当に良かったです。先程も恩田さんにご挨拶したんですが、映画が完成したあとも、こうして笑顔でお話しできて良かったなって思います。


――本作でミステリアスな少年、風間塵役の鈴鹿央士さんをオーディションで見つけたときに「塵そのものだ!」と感じたそうですね。

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写真右が風間塵役の鈴鹿央士さん

オーディションでは有名無名を問わず幅広くいろんな方に会わせていただきました。上手い子はたくさんいたけれど、なんとなくピンとこなくて。そこに現れたのが鈴鹿くんでした。彼は上手いというよりも、一番、ワケが分からなかった(笑)。今は結構、精悍な感じになっていますが、オーディションの頃はまだ幼い感じが残っていて。スゴイ経歴を持っていた子もいましたが、鈴鹿くんだけは「岡山から出てきたばっかりです。映画のことは全然わかりません」って。ヒョロヒョロって登場したので「何だこの子は?」って印象に残りましたね。オーディションが終わった後にプロデューサーたちと話し合って「大作映画の主役級のキャラクターに抜擢するにはリスクが高いのでは?」といった意見もありました。でも、その話し合いの様子と、鈴鹿くんがヒョロヒョロって登場した様子に、デジャブを感じたんですよ。何だろうこの感じは...と考えたら、原作にピッタリあっていたんです。フランスでのオーディションで風間塵が麦わら帽子をかぶって登場して、「何だこの子は?」って反感を持つ人がいる。そのシーンと同じことが、オーディション会場で起こった気がしたんです。「ああ、塵だ!」って。


――その後の鈴鹿さんへの演技指導などは大変でしたか?

あまり演技指導はしなかったと思います。定期的に会ってワークショップのようなものはやったんですが、そんなに頻繁には会えなかったので。メールでやり取りしてましたね。でも鈴鹿くんが送ってくる内容が「今日は〇〇食べました」みたいな報告で(笑)。その天然な感じが、演技にうまく出たのではないかと思います。


――登場人物それぞれのキャラクターがそのままピアノの音にあらわれているようで印象的でした。迫力のあるピアノ演奏シーンを撮影したときの思い出のエピソードなどあればお聞かせください。

そうですね。どのシーンも難しかったですね。のちのちカットして短くなったシーンでも、基本的には頭から大きなブロックで撮影していたので、役者さんは相当大変だったと思います。ただ、演奏が終わる度に、こちらから要求もしていないのに客席から自然に拍手が起こったんです。エキストラで入ってくれていた人たちにも感動してもらえて、この映画がうまくいくような気がしましたね。


――ここからは、監督の好きな映画についてお聞かせください!

たくさんありますね(笑)。なかなかこれが一番っていうのは難しいです。本作と同じく音楽に絡めて言えば、僕が初めてみた映画が、『ブルース・ブラザース』だったんですよ。最近観直してもやっぱり面白かった映画ですね。


――気に入った映画は観直しますか?

そうでもないですけど。映画との出会いって一期一会だと思うんです。だから映画を観る時にすごい中途半端な環境で観る人が苦手なんですよ(笑)。例えば、ちょっとスマホいじりながら観てて、面白くなったら目を向けるみたいな。「本当はそれがあなたにとって生涯の一本になるかもしれないのに」って思います。映画とそういう出会い方をしたら、深い印象を受けなくなるじゃないですか。


――映画を観る時の決まりごとはありますか?

そうですね。映画館でよく映画を観ますし、なんなら映画鑑賞前はよく寝るようにしていますね(笑)。寝不足で映画を観るなんて言語道断ですよねのは失礼な気がしてしまって。観なきゃいけないときもあるからなんとも言えないですけど。


――最後に本作ならではの "映画の楽しみ方"を教えてください。

映画館で音をぜひ体感していただきたいです。今回起用している、7.1chというサラウンドシステムで聞く音って、きっとどの音よりも違う響きと音圧があると思います。生のコンクールとはまた違って、別物として、これはこれですごく没入感があって新しい音の体験なんじゃないかなって。なので、一回劇場へ体験しに来てほしいです。

石川慶監督、ありがとうございました。

(取材・文/トキエス)

***

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『蜜蜂と遠雷』
10月4日(金)より公開!

監督・ 脚本・編集:石川慶
原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎文庫)
出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士(新人) ほか
配給:東宝

2019/日本映画/119分
公式サイト:https://mitsubachi-enrai-movie.jp
(c)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

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石川慶(いしかわ・けい)

1977年6月20日、愛知県生まれ。ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。2017年に公開した『愚行録』では、2016年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されたほか、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭、日本映画プロフェッショナル大賞では新人監督賞も受賞。その他の主な映画監督作には短編『点』(17)がある。

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