連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第109回 『食人雪男』

『食人雪男』 9月27日(金)公開

『食人雪男』
2020年製作(日本公開2021年)・アメリカ・72分
監督/ジャマール・バーデン
脚本/J・D・エリス
出演/カトリーナ・マットソン、エイミー・ゴードン、ロバート・バーリンほか
原題『ABOMINABLE』

※一部、刺激の強い画像が掲載されていますので、苦手な方はご注意ください。

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 ヒマラヤ山脈のイエティを代表とする雪男系UMAは、これまで多くの映画で題材にされてきた。そして今秋、史上最も残虐な雪男が日本に上陸する。9月17日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿武藏野館で上映される『食人雪男』だ。

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 主人公は脳腫瘍に侵されている女医のスミス博士。癌の治療に効くどころか、不死を得ることができる未知の薬草・雪男草を採取するチームのリーダーとして、地名が存在しない地域で謎の雪山に分け入る。やがて一行は、箱型パソコンや通信不能な無線機など旧式の設備が並ぶ無人の建屋を発見する。一体ここで何が行われていたのか、人々はどこへ消えたのか。

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 残されたボイスレコーダーを再生してみると、山に住む怪物に襲われ全滅したと記録されていた。またスミス博士と雪男草の共同研究をしていたマーティン博士のメモ帳が発見され、そこには「雪男を殺してはならない」と謎の言葉が記されていた。そしてメンバーは一人また一人と、凶暴な雪男によって手足や顎を引きちぎられ、顔面を剥がれ、内臓をむしり取られ、次々に惨殺されていく。雪男は自動小銃で撃たれても向かってくる不死身の怪物で、傷口に雪男草を擦り込めば完治してしまう。ネアンデルタール人が現れる前からヤツは存在し、雪男草の番人として生き長らえてきたのだ。果たしてスミス博士は無事に雪男草を手に入れ、病魔を克服することが叶うのだろうか......。

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 女性キャラはスミス博士の他に若いポッチャリ系のサラが登場する。これが鈍臭いキャラと思いきや、機転を利かして大活躍する言わばスミス博士とダブル・ヒロイン級の扱いなのだ。筆者は最近、ジャニーズJrの「美少年」メンバーが『秘密戦隊ゴレンジャー』をリスペクトして学園を守るという『ザ・ハイスクールヒーローズ』(テレビ朝日)にハマっていて、ヒロインのJK役がやたらマシュマロボディなのだが、不思議なカワイイオーラを発している。誰だろうと思ったら、何と『セブンティーン』専属モデルだった箭内夢菜(やないゆめな)ではないか! 『チア☆ダン』(18年)や『3年A組 今から皆さんは、人質です』(19年)など様々な学園ドラマで彼女を見てきた筆者は同一人物とは全く気づかなかった。いつからこんな風に? そうか、ポチャドル人気の趨勢に合わせて箭内夢菜がピンク(モモレンジャーのポジション)に変身するのかと観ていたら......そこはジェンダーレス男子が奪ってしまった! これも時代か。お好きな方はサラちゃんに注目を。

 さて、ここで過去のイエティ関連作品にも触れておこう。世界最古のイエティ映画は、見世物にするため興行師が捕獲したイエティが、ロサンゼルスの地下道に逃げ込んだところを警察官に射殺される『スノー・クリーチャー』(54年・米)だ。監督を務めたウィリアム・リー・ワイルダーの弟は、マリリン・モンローの『お熱いのがお好き』(59年)や『アパートの鍵貸します』(60年)などでアカデミー各賞を総舐めしたビリー・ワイルダーと超大物だった。1951年にイギリスの登山家エリック・シプトンが発見した巨大な足跡の写真が世界中で注目を浴び、1954年からイギリスを皮切りに各国が捜索隊を派遣し始めたイエティ・ブーム時に製作されたのものだった。

 アメリカに後れをとったイエティ火付け役のイギリスはというと、モンスター映画の最大手ハマープロが満を持して『恐怖の雪男』を1957年に製作。フランケンシュタイン博士や吸血鬼ハンターのヴァン・ヘルシング教授役でお馴染みの世界的怪奇スター、ピーター・カッシングを配役したが、怪物というより賢者のような顔のイエティがチラッと出るだけの期待外れな作品だった。ちなみに「忌まわしき雪男」といった意味の原題『THE ABOMINABLE SNOWMAN(アボミナブル・スノーマン)』は、当時の英語圏で報道され定着したイエティに対する呼称で、『食人雪男』の原題『ABOMINABLE』はこれに由来している。

 そして日本でも、当時のイエティ・ブームに触発された『獣人雪男』(55年)が作られた。無名時代に『キング・コング』(33年)を観た円谷英二は、その衝撃をモチベーションに『ゴジラ』(54年)を誕生させた後「和製キング・コング」の想いを『獣人雪男』に込めたのだ。ただし巨大な雪男が暴れるわけではなく、日本アルプスの奥地でひっそりと暮らす自給自足の民が未知の獣人と共生しているという設定で、種の絶滅と隠れ里の存亡をリンクさせた秀作だった。集落の描写が現在の社会通念上不適切なためか、東宝が商品化に消極的なのは残念だ。

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 さて、そんな昭和時代の作品を前提に最新雪男映画『食人雪男』はどうなのかというと......この令和の時代に相変わらず雪男は着ぐるみで、「想像を絶するスーパーバイオレンス」と大々的に告知されている残酷描写も今どき特殊メイク! でも安いCG見せられるより、先達が積み上げてきたスキルをベースに進化させた現代のアナログ特撮は逆に新鮮。最大の見どころである雪男による人体破壊描写は、気持ちいいほど人間を壊してくれるし。残酷描写で一世を風靡した1980年代のイタリア製スプラッターが好きな人なら、きっと楽しんでくれるだろう。

 こうして雪男映画は現在も連綿と作られ、近年ではヒマラヤ山中に墜落した旅客機の生存者をイエティが食いまくる『YETI イエティ』(08年・アメリカ)というプレ『食人雪男』みたいな作品もあった。劇場に足を運ぶ前にレンタルで借りるなどして観ておくのも一興だ。

(文/天野ミチヒロ)

※怪獣酋長・天野ミチヒロさんの連載は、今月をもちまして終了いたします。長らくにわたってのご愛読、誠にありがとうございました。

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『食人雪男』
9月27日(金)公開
©2020 PIKCHURE ZERO/UNCORK'D ENTERTAINMENT

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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