第107回 『スペース・モンスター』
写真はただのサワガニのイメージです(笑)本編とは関係ありません
『スペース・モンスター』
1965年・アメリカ・80分
脚本・監督/レオナルド・カッツマン
出演/ジェームス・ブラウン、フランシー・ヨークほか
原題『FIRST WOMAN IN SPACE』
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Z級映画の部類ではあるが、エド・ウッド作品よりは鑑賞に耐える(笑)劇場未公開のモノクロ映画。日本ではソフト化されておらず、筆者は30年ほど前に輸入ビデオ店で紙ケースの米国盤VHSビデオを購入し、今まで観たこともない衝撃映像にクラッときた。十数年前にテレビ東京で、3週に渡り米国の最底辺マイナーモンスター映画が奇跡的に放送され、『ビキニの悲鳴』(65年)、『恐怖の洞窟』(69年)と並んで本作がラインナップされていた。ようやく字幕付き高画質で鑑賞できたのは嬉しかったが、この作品セレクトで企画を通したテレ東の番組スタッフさんは只者じゃない。
2000年、4人を乗せた宇宙ロケット・ホープ1が、太陽系外にあるタイロス星が居住可能か調査に飛び立つ。だが史上初の女性宇宙飛行士である船医リサに対し、ハンク艇長はメンバー選考時から猛反対していた。以下は、出発したばかりのクルー同士の会話。
リサ「艇長、まだ私を不快に思っているの?」。
ハンク「女の能力を疑う。不満だ。間違った選考結果だ」。
リサはプンプンして操縦席から出ていく。
マーティン博士「女は怖いね」(男3人で爆笑)。
ジョン、機内の最先端テクノロジー機器を引き合いに「彼女の体は最高の装置さ。男じゃ目の保養にはならないしな」。
今なら男どもの言動は炎上必至だ。当時の時代背景として、作品の製作2年前にアメリカは人類初の女性宇宙飛行士をソ連のワレンチナ・テレシコワに先を越され、またウーマンリブ運動の機運が高まっていた。
ホープ1はやがて宇宙空間に停止しているUFOを発見し、乗り込んだハンクとジョンが宇宙人とバッタリ遭遇。目が中央に寄った老人のような顔で脳味噌ムキ出し。宇宙人は「キュッキュッ」と音を立て舌先をピロピロと口から出し入れしていて、この動作がとにかくキモイ。特殊メイクは、現在は映画キャラクターの被れるゴムマスクを商品化しているドンポスト社だ。ここで普段から軽薄なジョンが「ナイストゥーミーチュー」と握手を求めにいく(いかないよ普通)と、いきなりピョーンと宇宙人は飛び掛かってくる。ジョンの首を絞める宇宙人を即ハンクは射殺し、UFOも時限爆弾で爆破してしまう。
災難だったジョンは操縦席で居眠りし、ビーチでビキニのリサと抱き合いチュウする夢を見る。ハンクに起こされたジョンは、夢の続きを楽しもうとリサの研究室へ行き「俺はハンクとは違って君を認めている」と口説き始める。だがホープ1は隕石群と遭遇して故障、直近の星の海底に不時着する。
人の本性は、こうした非常時に出る。堅物ハンクは沈んでいるリサを慰めにいった流れで和解、歳の差(俳優の実年齢差18歳)を物ともせずリサの唇を強引に奪う。また「操縦していたのは俺じゃないからな」と遭難の責任逃れをするジョンには「俺のせいかよ!」と、これまで冷静沈着だった重厚キャラのハンクがブチギレ。ここで温和なマーティン博士が「お互いが必要だ」と仲裁に入り両人は頭を冷やす。とチームの結束力が強まった途端、機体に強い衝撃が走る。モニターに映し出されたのは数十メートルもある巨大なカニ! 群れをなしホープ1を囲んで巨大なハサミで突いていたのだ......というか、水槽に沈めたロケットの作り物に本物のサワガニを這わせただけの、上映したら場内爆笑必至のローテク特撮。リサ「何なの?」。マーティン「わからん」。ハンク「巨大生物だ」。いやいや誰がどう見てもカニでしょ? と画面にツッコミ入れていると、最後にジョンが「恐らくカニの一種じゃないか?」(笑)。
大気成分が地球に近いことが判明し、調査対象がタイロスからこの星に変更される。進んで名乗りを上げたジョンがスキューバダイビングで陸地を目指し、ハンクがホープ1のバリアで巨大ガニの動きを止め援護する。カニさんたちはピクッピクッと体を震わせ、水中にフワ~と浮遊し体が裏返ったりしているが、おそらくスタッフが電気ショックを与えたか熱湯でも掛けたのであろう(現在は動物虐待に当たる禁止行為)。
だがジョンは巡り合わせが悪いのか、今度は海中で半魚人に襲われ、命辛々ホープ1に戻るが「この星は住める」と言い残して絶命する。セクハラを受けたリサも喧嘩したハンクもジョンの勇気ある行動に敬意を表し、マーティン博士もこれまでの彼のふざけた態度は照れ隠しだったと心理分析。それに皆が同意し、深く悲しむのであった。修理の済んだホープ1が海底から脱出する際、機体に脚を絡める巨大ガニを再びバリアで振り払う。後にはカニさんたちが裏返ってピクリともしない(合掌)。ハンクは地球基地に報告する。「移住できる星を発見。その名はアンドロス1」。アンドロスはジョンの姓だった(泣ける)。
製作会社AIPは50年代から60年代にかけて、本物の動物を巨大に見せる特撮を得意としていた。また舌をピロピロする宇宙人の不気味さは、メジャー作品にない独自のバッドテイストを感じる。監督のレオナルド・カッツマンはその後『ハワイ5-0』(68~80年)、『ダラス』(78~91年)など全米大ヒット名作ドラマのプロデューサーとして出世したという。
(文/天野ミチヒロ)