第41回 『ザンゴリラ』
『ザンゴリラ』 原題『PRIMAL RAGE RAGE』
1989年・イタリア(劇場未公開)・88分
監督/ヴィットリオ・ランバルディ
脚本/ハリー・カークパトリック
出演/パトリック・ロウ、シェリル・アルット、ボー・スヴェンソンほか
大映ビデオ(廃盤)※DVD未発売
あけましておめでとう! 今年は申(さる)年ということで、まずは猿系のマイナー怪獣怪人映画からスタートだ。ホラーの巨匠ルチオ・フルチによるイタリア製ゾンビ映画『サンゲリア』(79年)のヒットにより、『ゾンゲリア』(81年)などの意味なし横文字タイトルのホラービデオがドッとリリースされた80年代から90年代、『PRIMAL RAGE RAGE』(原始の猛威)なる作品が『ザンゴリラ』という投げやりな邦題で日本に上陸した。
主人公は大学新聞部のサムで、構内施設で行われている実験動物の虐待を追っていた。研究室では中年チョンマゲヘアのエセリッジ博士が、ヒヒを使って脳障害治療の生体実験を行っている。だがヒヒは「キー! キー!」と発狂して実験は失敗する。
博士役のボー・スヴェンソンは元海兵隊員の肩書を生かしたB級アクション映画でよく見かけ、ロバート・レッドフォード主演の『華麗なるヒコーキ野郎』(75年)から、『キル・ビル』(03年)、『キル・ビル2』(04年)などのタランティーノ作品、深作欣二作監督『復活の日』(80年)までと、実に様々な作品に顔を出している俳優さんだ。
サムと同じ新聞部のダフィは、スクープを取ろうと深夜の研究室に単身忍び込むが、フラッシュを浴びて凶暴化した発狂ヒヒに腕を噛まれてしまう。ケージを破って窓から脱走したヒヒは、警報で駆け付けたパトカーと鉢合わせし、フロントガラスに顔面から「グシャッ!」と叩き潰される。
体調がおかしくなったダフィだが、サムの彼女のルームメイト・デビーが学内で悪名高いナンパ男に絡まれているところを、男の手首を締め上げて救う。父親は詐欺師のニセ不動産屋で誰かに殺され、母親は偽造小切手で刑務所暮らし、自分は妊娠中絶したばかりでIQ184という(汗)、整理しきれない情報量を持つデビーは、話題豊富で頭の回転が速く、腕力もある(これには秘密が)ダフィに魅かれる。無人のプールサイドで2人はキスを交わすが、興奮したダフィがデビーの首筋を「カプッ」と噛んでしまう。
翌日ダフィは病院へ行くが、待合室で突然「ファッキュー!」と居合わせた人々や職員らに暴力を振るい、奇声を上げながら逃走。容貌はゾンビのようになり、パトロール中の警官を怪力で頭を壁に叩き付けて殺害。一方、ダフィに噛まれたデビーも凶暴化し、「みんなでまわそうぜ、イエ~イ!」と襲い掛かる先程のナンパ男をボス格とする3人相手に噛みつきまくる。外へ出ると、女子大生が「単位欲しいな」とハゲ中年教授をたらしこみ中のところへやって来て両人を殺害。もうお気づきかと思うが、ゴリラは出てこない。発狂ヒヒから感染して凶暴になった人間......それがザンゴリラなのだ!
サムは「俺を殺してくれ」と頼むダフィを泣きながら射殺し、彼に噛まれたデビーを博士の研究室に連れていく。「しめた」と博士は人払いをし、死んだヒヒの代わりにデビーで生体実験をしようとする。だがデビーは抵抗し、博士の左目を喰いちぎって逃走する。
その夜、キャンパスでは盛大にハロウィン・パーティーが開催されていた。夢中で踊り狂う仮装学生達の中、全身ドクロの衣装に身を包んだ3人組ザンゴリラ(ダフィに噛まれた連中)とサムが戦う。1人は転んで鉄パイプが口から後頭部を貫通。1人はサムが体育館の電動折り畳み式観客席の裏に誘い込みスイッチオン。両方の目玉がポロポロ落ちてグシャグシャに潰される。そして「ボスVSデビー」のザンゴリラ同士の対決! ボスはデビーを喰いちぎりズタズタにし、次はローレンに迫る! 間一髪、サムが背後から斧で渾身のスイング。「スパッ」と首が切断され「ボトッ」と床に落ちるザンゴリラの頭。
夜が明け、事件は収束したと思いきや、ローレンを片目の博士ザンゴリラが急襲! 「ダダダダン! ダダダダン!」とあの特徴的なゴブリン音楽が鳴り響く。曲は『サスペリア』(77年)、『ゾンビ』(78年)などの音楽を手掛けたゴブリンのメンバー、クラウディオ・シモネッティだ。だが博士ザンゴリラはサムと格闘中に勢い余って手すりを越えて4階から落下。あっけなく死亡して終わり!
この、まるで面白くない脚本を書いたハリー・カークパトリックは、別名義ウンベルト・レンツィで、『怪奇! 魔境の裸族』(73年)、『食人帝国』(80年)、『人喰族』(84年)なる「食人三部作」、またブルース・リーは出てこない怪作(苦笑)『秘録 ブルース・リー物語』(78年)の監督としても知られている。
さて、この作品にはビデオジャケットに明記してあるように、「特殊効果カルロ・ランバルディ」という最大のウリがある。『エイリアン』(79年)、『E.T.』(82年)で2度に及ぶアカデミー視覚効果賞を受賞した御大だ。ランバルディ......そう、実はこの作品の監督ヴィットリオ・ランバルディはその実の息子。これといった実績を残せなかったジュニアも、偉大な父上の威光と、この『ザンゴリラ』というバカ邦題のおかげで、日本のマニアにちょっとだけ記憶に留めてもらえたのであった。よいのか悪いのかは別にして。
(文/天野ミチヒロ)