連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第39回 『吸血蛾クレア』

『吸血蛾クレア』
原題『BLOOD BEAST TERROR』
1968年(劇場未公開)・イギリス・88分
監督/ヴァーノン・ソーウェル
脚本/ピーター・ブライアン
出演/ピーター・カッシング、ワンダ・ヴェンサム、ロバート・フレミングほか

 1966年から1967年にかけて、米国ウエストヴァージニア州でモスマン(蛾男)というUMA(未確認生物)が現れて大騒ぎになった。この騒動は2001年にリチャード・ギア主演の『プロフェシー』で映画化されたほど、アメリカの超常現象シーンではポピュラーなものだ(映画はクソつまらなかった)。翌1968年、そのモスマン事件を知ってか知らぬか、イギリスで「モスウーマン」が登場する『吸血蛾クレア』が制作された。今回も引き続き、カッシング主演による幻のモンスター映画をお届けしよう。

 19世紀のロンドンで、正体不明の生物による連続殺人事件が発生する。死体は共通して顔に引っ掻き傷、全身の血が失われた状態で、唯一の生存者が「でかい目をして翼が生えている化け物だ」と警察に語り精神病院へ送られる。クエンネル警部(P・カッシング)は、動物全般に詳しい昆虫学者メリンジャー教授を訪ねる。警部が現場に散らばっていた謎の破片(通常の100倍もある蛾の鱗粉)を見せると、教授の顔色が変わる。

 その最中、アフリカを探検してきた昆虫研究家の青年が、教授の屋敷にやって来る。教授にはクレアという美しい娘がいて、すぐに青年と仲良くなる。2人は森でカクレンボをするが、青年が目を開けると「キシャ~ッ」と怪物が出現! 頭に2本の触覚を生やし、真っ赤に輝く大きな複眼。クレアが蛾の怪人に変身したのだ! 悲鳴を聞き警部が駆け付けるが、「ドクロメンガタ......」と言い残し青年は息絶える。

 蛾の一種ドクロメンガタスズメは、骸骨の面型に見える模様から不吉の象徴とされ、現れると災いが起こると言われている。『羊たちの沈黙』のポスターで、ジョディ・フォスターの口に描かれているアレだ。日本を含むアジアに広く分布するが、イギリスでは過去170年の間で5回しか目撃されていない幻の蛾で、今年6月にランカシャー州に現れて話題になった。だから正確には、クレアはドクロメンガタスズメ怪人なのだ。しかし青年も襲われながら種を特定するとは、死ぬ瞬間まで昆虫オタクという見事な死に様だ。

 クレアは血を吸いたくなると、蛾女に変身して人を襲っていたのだ。彼女をそうさせたのは父親である教授だった。だが何の目的で、いかなる手法で作り上げたのかは、劇中で一切語られない(語れよ!)。そんなマッドな教授は騒ぎが大きくなったため、クレアと共に行方をくらます。警部は怪しいと睨んだ教授邸から人骨や死体を発見し、教授の逃亡先と思しき郊外の村へ娘のメグを連れて捜索に出かける。娘が楽しみにしていたバカンスを、この際出張捜査で兼ねてしまおうというダメな父親(不憫なメグちゃん)。

 教授は村では名を変え、クレアとひっそり暮らしていた。そして実験室には、目の部分が赤く光る巨大な蛾のサナギが天井からサンドバッグのように吊るされている。モソモソと動く不気味なサナギは、ワガママ娘がパパにおねだりしたボーイフレンドだった。そして蛾人間は、花の蜜ではなく人の血を養分とするので始末が悪い。散歩中のメグがクレアに捕まり、サナギに与える血をたっぷりと抜かれる(可哀そう過ぎるメグちゃん)。

 翌朝、血が飲みたくて我慢できなくなったクレアは、以前からモーションかけている若い庭師を森に誘いディープキス。「やれる!」と勘違いの庭師、蛾女に変身したクレアに血を吸われてしまう。だが次々と人を殺す娘に心底困り果てた教授は、説教しても聞かない反抗期のクレアにビンタ。さらに「私は悟った。オマエ達なぞ、こうしてやる」と、クレアの目前で誕生間近のオスのサナギを燃やしてしまう。この仕打ちにクレアが怒りの変身。翅(はね)をバッと広げて父親を殺す。

 やがて昆虫採集をしていた大学生が、珍しいドクロメンガタスズメを捕まえたので教授に見せに来る。クレア「殺したの?」。大学生「はい。標本にしようと思って」。顔が険しくなったドクロメンガタ女「父は不在よ。そこまで送るわ......」(怖っ)。一方メグは教授の死体を発見し、慌てて階段から転げ落ちて気絶する(とことん災難なメグちゃん)。

 そこへ警部らが到着し、大学生を吸血中の蛾女に巡査部長が威嚇射撃。上空へ飛んで逃げる蛾女。とっさに警部は蛾が光に集まる習性を利用しようと、カンテラの火を積まれた枯れ葉の山に着火。そこへ飛んで火にいる夏のクレアがバサバサ飛んで来て翼に引火、燃えながら落下。黒焦げの蛾女は一瞬クレアの顔に戻るが、やがて灰となる......。

 せっかく作った蛾女は常に一瞬しか映らない。スーツの出来が悪かったので、あまり見せたくなかったのかも。ラストで燃え落ちる飛行体も、よく見ると翼が明らかにコウモリ。在り物のコウモリ人形で間に合わせたのだろう(美術担当の怠慢)。

 クレアを演じたワンダ・ヴェンサムは、イギリスの名作ドラマ『謎の円盤UFO』(70~71年)の、凛々しくもセクシーなヴァージニア・レイク大佐(声・小原乃梨子!)で根強い人気を持つ。こんな役どころでお目にかかるとは......。

(文/天野ミチヒロ)

« 前の記事「怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」」記事一覧次の記事 »

天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

BOOK STANDプレミアム