宋光復九段、盟友との対局で打った「幸運の一手」

撮影:小松士郎
弟子たちの目覚ましい活躍を厳しく温かく支え、見守り続ける宋光復(そう・こうふく)九段。今回は、ご自分の若かりしころも振り返りつつ、院生時代以来、親交の深い小松英樹九段との一局から、印象深い一手を語っていただきました。

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■目標のNHK杯で同期対決

初めてNHK杯に出場させていただいた年の、小松英樹さんとの一局から、今回の一手を選ばせていただきました。
NHK杯は、入段したときから「出たい」と思っていた一つの目標の棋戦でした。終わってみて、反響が大きかったものですから、そちらに少し驚いた覚えがあります。録画したテープを送ってくださった方もいて、私は自分の姿は恥ずかしくて見られないので、見ずに保管してあります(笑)。
1回戦は石井邦生先生に運よく勝たせていただいて、2回戦は小林覚先生になぜか勝てたのですね。不思議ですね。そして、3回戦が小松さんでした。
小松さんとは、同期の入段でした。院生のころから仲がよく、当時のエピソードは、どれを話したらいいのか分からないほど数多くあります(笑)。プロになってからは、小松さんは若手棋戦で次々優勝し、リーグの常連になり、同期の中でも別格という印象でした。「私も」という気持ちは、もちろんあったのですが、なかなかうまくいかない時期が続いていました。ですから、この対局も、勝負うんぬんというより、何とかいい碁を打てればという気持ちで臨みました。よく知っている相手なので、逆に打ちやすかったということはあったかもしれません。
小松さんとは、ずっと親しいのですが、特に、私の一番弟子の安斎(伸彰七段)から、平田(智也七段)、一力(遼七段)と弟子たちを彼の研究会に入れていただいて、みんな強くさせてもらっているんです。ですから、親友ですけれど、恩人でもありますね。
実は、今回のこの碁も、弟子たちにも見てもらいました(笑)。ふだんから、自分の打った碁で分からないことは弟子に聞いています。弟子だろうが師匠だろうが、盤上では対等ですからね。みんな個性が違うのでいろいろな反応があって、判断のしかたもいろいろあって、発見が多くて勉強になりますね。
さて、局面図は…大型定石からスタートしまして、各所の戦いが一段落したところです。

黒としては、天元脇に打った黒83の一子を何とか生かして、中央をまとめていきたいなという局面です。上辺の白の形には少し薄みがあるのですが、黒は周りが整備されていませんのですぐに仕掛けていってもうまくいきません。そこで、上辺を見ながらどうするか、というところですね。次の手は、「形」で打ったのですが、いい流れになり幸運でした。「幸運の一手」とさせていただきたいと思います。
1図の黒a、白b、黒cと切断する狙いを見ながら打ち進めたいところで、私は黒93とツケて二線から様子を聞きました。早碁で時間のない中、正直、先までの構想を描けていたわけではありませんでした。
白dのオサエは黒eと引かれて白はつらい。

そこで、2図の白94のハネ出しから、96と黒一子を取ってきました。黒は97と上から形を決めて、99とノビ、中央を重視しました。
続いて、白100のハイは白の権利です。白102の切り込みには、黒105までと応じるしかないところです。
ここで、白106のツケが、黒の断点を見た筋なのですね。さらに、白108の二段バネも筋です。
白110に続いて、3図の黒1と受けてしまうと、白2、4のアテから白6とハネられて、白が好形になります。

黒はこの白を攻めるどころではなくなりますね。完全に中央が破れて、黒がいけません。
実戦は、受けずに、4図の黒11(黒111)と押していきました。白は12の切りから14と黒二子を取り、さらに黒二子を取る手が残っています。部分的には非常に大きく、黒が損をしています。ですが、黒15に回って、この一手で中央が止まりました。

少し間が空いているようですが、周囲の黒が厚いので白の侵入を止めているのです。
また、黒11の押しがきたことで、白は中央に踏み込めなくなっています。
5図の白1には、黒2から6までと分断しておきます。白7から、仮に中央で事件を起こされて荒らされたとしても、黒8、10の狙いを決行できる形。黒aのアテが利くために、黒が補強されているからです。黒12までとなれば、上辺の白を取れそうです。

4図の黒15までとなって、打っているときは意識しなかったのですが、黒がほんの少しよくなっているようです。1図黒93のツケから急に流れがよくなり、5図を描けたことは本当に幸運でした。
この碁は、最後に小松さんのミスがあり、7目半勝ちとなりましたが、実際には1目半か半目の差でした。NHK杯で三つも勝てたのは、無欲で臨んだ結果だと思います。

■弟子たちと共に成長したい

私の同期は、小松さんだけではなく、マイケル レドモンドさん、藤澤一就さん…皆さん、弟子が活躍するようになりました。忙しくて、昔のように時間を取れなくなりましたが、一度集まって「私たちも頑張ろう」というような話をしたいなと思います。
私はこれからもマイペースで碁に向き合っていきたいですね。弟子たちとの勉強は楽しく、その時間も生かして少しでも成長していきたいと思っています。
弟子の指導法は、よくお話をさせていただいている安藤武夫先生からよいお言葉、アドバイスをいただいて実践しています。例えば、囲碁は精神状態が大きく作用しますので、一緒に食事をする時間をしっかり取るようにして、いろいろ話し合っています。
弟子が入段を決めたときは、うれしかったですね。こんなにうれしいことがあるのかというくらい。なぜか入段の知らせを新幹線の中で聞くことが多いのですが(笑)、早く顔を見たくて東京に飛んで帰りたかったのを覚えています。いろいろ苦労はあっても、よい知らせがあると全部吹き飛んじゃいますね(笑)。
※この記事は5月28日に放送された「シリーズ一手を語る 宋 光復九段」を再構成したものです。
■『NHK囲碁講座』2017年8月号より

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