リーダーは「ダジャレ好きの寂しがり屋」が向いている? 国民的アイドル"育ての親"夏まゆみさんインタビュー
- 『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』
- 夏まゆみ
- サンマーク出版
- 1,512円(税込)
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「管理職になりたくないから、出世したくない」、そんな考えを公言する社会人も珍しくなくなってきた昨今。先日も、インターネットの「はてな匿名ダイアリー」で、上司から「あなたを管理職にしたい」と打診され、その場で「辞めます」と言って退職したという29歳の男性の投稿が話題になりました。
「これからどうすればいいかわからない」と題された記事には、800以上のブックマークが付き、賛否はそれぞれながら、世間の人の"リーダーになること"、ひいては"人生を主体的に生きること"に対する関心の寄せ方がうかがえます。
そんなリーダーを巡る議論に対し、「面倒くさいことや辛いことを乗り越えてリーダーになった後、あなたに想像以上の幸せや喜びが訪れるということを約束したい」と語るのは、ダンスプロデューサーの夏まゆみさんです。
AKB48、モーニング娘。、ジャニーズなど国民的アイドルの「育ての親」として知られる夏さん。具体的な教え子指導のエピソードをもとに「エースになる人の条件」を説いて6万部を突破した2014年の前著『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(サンマーク出版)以後に講演依頼が殺到。そこで質問されることの多くが「リーダーとしての部下の指導法」についてだったということを受けて、今年6月に上梓したのが『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』(サンマーク出版)です。
前作の反響を経て、今回は後進の指導における「リーダーたる人の条件」を説いているともいえる同書。夏さんはこの本にどのような思いを託したのでしょうか。
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----リーダーシップに関する書籍は数多くある中で、本書はとても具体的で、明日からでも使えそうな"知恵"に富んでいると感じました。
夏まゆみさん(以下、夏):ありがとうございます。経営の観点から書かれたリーダーシップの本は概念が書いてあることが多いと感じますが、概念を実行に移すということは実際にはとても難しいですよね。私は30年におよぶ教え子たちへの指導において、誰にでも通用するような画一的なノウハウというものはないと実感しています。ただし、原則はあります。「関係づくり」、「環境づくり」、そして大原則として指導は一対人数ではなく「一対一を人数分」ということ。こうお話しするとやはり概念になって難しく思われてしまうと考えたので、誰にでも分かり易くすぐに実行にうつせるよう「言葉」の大切さと使い方にフォーカスし具体的にしたのがこの『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』なんです。
----本書に度々登場する「成長言葉」ですね。「押しつけ言葉」と対になってキーワードとなっています。
夏:人を育てるときは、自分が伝えたい自分の感情中心の「押しつけ言葉」になっていないか気をつけた方がいい。自分が好んで使いたい言葉を使うのではなく、相手をよく観察して、教え子によってかける言葉を変えるんです。それが心に本当に響き、相手が奮起する「成長言葉」です。
「怒る」と「叱る」の違いで説明すると分かりやすいかもしれません。ただ一方的に自分の感情をぶつけて怒って発するのが「怒る」=「押しつけ言葉」。相手の個性やこれからの成長を考えて伝えるのが「叱る」=「成長言葉」です。「押しつけ言葉」で怒っている場合は、相手の心に響いていないため、教え子の目線は下がっているはず。
----「ちゃんと聞いているの!?」なんてつい言ってしまいそうです。
夏:それこそが「押しつけ言葉」と気がつくといいですね。グッとこらえて自分が冷静になるのを待ちたいところですが、そんなときは私の場合は瞬間的に英語を使うことがあります。『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』にも書きましたが、ある現場の雰囲気が停滞していたときに、「What's your dream?」と叫んだことがありました。いきなり英語でどうしたんだと、空気を一変させることができるし、夢について思い入れがある教え子ならやる気をふいに取り戻したりもします。
昔、モーニング娘。を指導しているときに、「How many times did I tell you?」と言ったことがありました。日本語にしてみると「何回言ったら分かるの!?」ということですが、外国語に変えるだけで自分もちょっとクールダウンできます。そしたら、年少のメンバーは私が英語を使っただけで「いえーい」なんて盛り上がったりしてね(笑)。
----ちょっとした言葉の工夫で風通しが良くなるんですね。
夏:そうです。私は"おやじギャグ"もしばしば口にするのですが、「みんなのダンスには軸がないんだよっ!」と叱った後で、「軸だよ軸。そろばん塾、英語塾、それは塾か」なんて言ったりします。教え子につまらないと思われたって、叱られたショックを引きずって萎縮されるよりはずっといいんです。
おやじギャグは部下に敬遠されると思っている方は使い方が大事です。叱った後や、ふだん怖いと思われている人ほど効きます。「憎めないな」「かわいいところもあるじゃん」って、もしかしたら部下としては憐れみの感情も入っているかもしれないけど、人って弱いところやかっこ悪いところに共感する生き物です。私は教え子が何人いても、「一対一を人数分」の姿勢で臨みたいと思っていますが、私がふと見せた人間くさい部分に共感してくれることで、教え子も私を一対一の関係性として捉えてくれるようになるのかもしれません。
----教え子側からの指導者に対する真摯な関係性としては、元AKB48の初代総監督の高橋みなみさんのエピソードが印象的でした。
夏:彼女は例え私が他の教え子に対して言った言葉でも、自分のこととして受け止めるんです。彼女は誰よりも言葉を敏感に捉え、指導者である私の目を見て傾聴し、それを練習に活かしていました。だから、彼女はものすごく多くのことを吸収し、チームの一員からキャプテンへ、最終的には初代総監督として強力なリーダーへと成長していったのだと思います。
----それにしても、たくさんの人を指導するなかで、一対一の関係性を築いていくのはとても大変なことだと思います。夏さんのそのモチベーションはどこから来ているのでしょうか?
夏:多分、寂しがり屋だからではないでしょうか。以前、サッカーのあるチームの監督さんが「監督は孤独なものでね」とおっしゃっていましたが、私はそういって片付けてしまいたくない。どんなに大勢を相手に指導していても、それぞれの心に響いていなかったら淋しいんです。だから、少なくとも一人ひとりに目を合わせて、気になったことがあればその子にあった「成長言葉」で、自信を与えたり、道を示したりしていければと思います。
リーダーであるということは確かに簡単なことではないし、なりたくてなった人ばかりではないということも知っています。ただ、リーダーとして活躍していった教え子たちの成長を見るにつけ、1人ひとりが自分の人生を主体的に生きるリーダーになれたら、どんなにか成熟した社会になるだろうと思います。それは私が今後長い時間をかけて追求したいテーマですが、まずはその一歩として『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』がコミュニケーションの取り方としても大変役立つと思いますので、組織や集団の中でリーダーに指名されたときのテキストブックになれたら嬉しいです。
■プロフィール
夏まゆみ
なつ・まゆみ/ダンスプロデューサー、指導者。1962年、神奈川県生まれ。1980年に渡英以降、南米、北米、欧州、アジア、ミクロネシア諸国を訪れ、オールジャンルのダンスを学ぶ。1993年には、日本人で初めてソロダンサーとして、ニューヨークのアポロシアターに出演。1998年、冬季長野オリンピック閉会式の振り付けを考案、指揮した。NHK紅白歌合戦では、20年以上にわたってステージングを歴任。コリオグラファーの第一人者として、これまで吉本印天然素材、ジャニーズ、モーニング娘。、宝塚歌劇団、AKB48、マッスルミュージカルなど、300組以上を指導。2014年に出版した『エースと呼ばれる人は何をしているのか』(サンマーク出版)は、6万部を超えるヒットを記録した。