小さな奇跡から始まった隙のない攻防

左/松尾 歩八段、右/斎藤慎太郎七段 撮影:河井邦彦
第67回 NHK杯戦 観戦記 1回戦 第15局は、松尾歩(まつお・あゆむ)八段と、斎藤慎太郎(さいとう・しんたろう)七段の対局だった。宮本橘さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。



* * *


■小さな奇跡

恒例の対局前のインタビュー、相手の印象を問われた両者の回答が面白い。
最初は松尾で「さわやかなイケメン」と斎藤を評した。続いて斎藤が「優しくて、渋くて、かっこいい棋士」と松尾を持ち上げる。
掛け合いで褒め合っているようだが、もちろん収録は別々。相手が何を言ったのか、全く知らないのに息ぴったりという小さな奇跡だった。
将棋は▲3四飛(1図)で横歩取りに進んだ。両者が得意にする戦法だ。



■隙のない構え

横歩を取った飛車を引かずに▲5八玉(2図)は、青野照市九段が得意とすることから青野流と呼ばれている。
飛車を引き、2筋に戻る2手すら省略して最短手数で攻めようという、積極果敢な作戦だ。進んで▲3七桂は、次に▲4五桂を狙っている。以下△4四角は▲同角△同歩▲5三桂成が決まる。△8八角成は▲同銀△6二銀に▲7七角が厳しい。後手は▲4五桂を防ぐために△6二銀と備えた。△5一金(3図)まで、双方低い構えで隙がない。


■構想の始まり

3図から先手は▲3五飛と引いた。「飛車を安定させたということでしょう。▲2五飛と戻してゆっくり組み直す含みもある」と解説の糸谷八段。
ところが、松尾は全く違うことを考えていた。後手が△7四歩と突くのを待っていたように▲8七歩と打ち、続いて角交換。△3三同桂の局面は次に△4四角があり、もう▲2五飛とも回れず、先手忙しい。
▲6六角を見た糸谷八段は先手自信がないと評した。だが、松尾の構想は、その評価を上回っていく。

※投了までの記譜と観戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK将棋講座』2017年9月号より

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