風炉の茶花

花入:竹釣舟 花:祇園守木槿(ぎおんまもりむくげ)、半夏生、桔梗(ききょう)、唐糸草、縞葦(しまあし) 掛物:有隣斎筆涛々 [有隣斎が美濃の紙漉(すき)産地を訪ねた折、紙漉き中の和紙に指でしたためたもの] 
茶花は茶室のほかの道具の中でも、唯一命あるものがゆえに、亭主は、その季節を映す花に何日も前から心を配り、客も、その日その一刻に出会う花に新鮮な感動を覚えます。武者小路千家家元准教授の佐伯久徳(さえき・ひさのり)さんが、風炉(ふろ)に合わせる茶花について教えてくれました。

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■風炉の花

五月の立夏ごろになると、茶室のしつらえも炉が塞がれ風炉になり、山野の草花や木々も生き生きとした緑が鮮やかな季節になります。
その自然を表すように、床の間の花も椿(つばき)から草花に変わります。特に牡丹(ぼたん)などは花の王とも呼ばれ、古くから茶人にも格式の高い花として重用されてきました。また端午の節句にちなんで入れられる菖蒲(しょうぶ)や杜若(かきつばた)は、その姿が凜(りん)として美しく映り、床の間が一層清楚(せいそ)な雰囲気になります。
近年は山芍薬(やましゃくやく)や大山蓮華(おおやまれんげ)なども容易に手に入れられるようになり、その存在感とともに、爽やかな新緑の季節の席中に重みを与えてくれます。そのほか、熊谷草(くまがいそう)や敦盛草(あつもりそう)、浦島草(うらしまそう)なども五月の珍花としてよく入れられます。
梅雨のころに咲く紫陽花(あじさい)も茶花として用いられますが、一般的に市中で見かけるものは、花の大きさから茶室の床に合い難く、花が多く頭が重くなり入れにくいこともあり、山紫陽花(やまあじさい)や額紫陽花(がくあじさい)のような小ぶりのものが好まれます。
真夏に向けて咲く花としては、最も代表的なものに木槿(むくげ)があります。冬の椿と同様に、夏の木槿も多くの種類と銘を持つ花で、利休の孫、宗旦(そうたん)が好んだとして知られる宗旦木槿や、京都の祇園祭にちなんで名付けられた祇園守などが有名です。
花は朝顔などと同じく早朝に咲き、また咲いたものは昼には萎(しぼ)んでしまうものも多いため、夏に催す朝茶事では、早朝の涼しいうちに客を招き、通常の正午の茶事とは逆に、その初座で花を飾り、後座に掛物を掛ける形式で行います。これこそが、命ある花だからこそ、その最も良い瞬間を客に見ていただくために考えられたものだと言えます。
夏の暑さも治まりをみせる九月から十月の晩秋にかけては、月見の趣向で大きな手付の牡丹籠などに、秋草とともに芒(すすき)の穂が出たものが入れられます。また、十月の名残の季節には、大きな花をつけるようなものがなく花自体が小ぶりなものばかりになるため、三種や五種では寂しく映るので、十数種を超える数を彩りよく入れ、残花を楽しみます。

■風炉の花入

風炉の季節の花入には主に籠花入があります。利休が桂川(かつらがわ)の漁師が使っていた魚籠(びく)を花入に見立てた「桂川籠」や、鉈を入れる鞘(さや)を掛花入に見立てた「鉈籠」があり、また利休が瓢箪(ひょうたん)の水筒の上半分を切り、花入として好んだ「顔回(がんかい)」という孔子の一番弟子の、侘(わ)びた生活にちなんで名付けられた花入も有名です。これらの籠や瓢の花入は、竹の尺八花入や一重切、二重切の花入などとともに利休の創案となり、それ以後、利休の侘茶の精神を象徴するものとして各千家歴代の家元の好みものが多く作られてきました。
特に籠や瓢は、花入の格としても唐銅や青磁などの「真」の花入と区別され、「草」の花入に分類されるように、夏の草花や秋草のような多種多様な草花を入れるには最適なものと言えます。
■『NHK趣味どきっ! 茶の湯 武者小路千家 残暑から初秋を楽しむ茶会』より

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