自己紹介に使えるワザ──聞き手との接点を見つけ、共有できる情報を開示

撮影:武藤奈緒美
最近は学校が主催する落語会が増え、立川(たてかわ)こはるさんも招かれることが多いとか。児童・生徒向けもあれば、人前で話すのが仕事の先生たちに向けた落語会もあるそうです。今回は、そんな先生向けの落語会での名乗り(自己紹介)を見てみましょう。聞き手との接点の見つけ方、共有できる情報の提示のしかたは、わたしたちの自己紹介でも参考になります。認知科学者の野村亮太(のむら・りょうた)さんに解説してもらいました。

* * *

今回、お招きにあずかりました、立川こはると申します。
先生方の前で、こんな若輩者が申し上げるのも、いろいろ恐縮いたしますが、わたくしも(ポイント1)人前でしゃべるという商売でございます。
まだキャリア11年目でございますが、落語を通してなにかお伝えできることもあるのではないか、ということで、今回こちらに伺ったような次第でございます。
ちなみに、わたくし、大学院を中退して落語家になったという経歴を持っておりまして。ちなみに理系(ポイント2)でございます。
なにかしら、お話の中で引っかかるところがございましたら、ゆっくりと、あとでお話ししたいと思いますが、まずは、どうぞよろしくお願いいたします。
 

■こはるのひとこと

先生方はみんな年上と想定しているので、「若輩者ですが」と、下から行くのが基本。また大学院で昆虫の細胞培養をやっていたことは、あえて言わず、「大学院中退」「理系」という言葉だけをフックにして、高座のあとの懇親の場などで、話題としてもらう心づもりでございます。

■野村亮太のここに注目!

ポイント1 同じく人前でしゃべるのが仕事である先生たちと同じ、という意味を込めて「わたくしも」と言うことで、すっと仲間内の距離をつくっています。
ポイント2 たくさんのことを述べるより、本質的な単語をひとつ放ることを選んだこはるさん。すばらしいですね。
その場で目標達成するよりも、課題の途中でやめたほうが、そのことを覚えてもらいやすいことがあり、これを「ツァイガルニック効果」と言います。「この人を知りたい」と思っている人にとって「理系」というフックは、聞き手の興味をそそり、覚えやすさという意味でも有効かもしれません。
■『NHKまる得マガジン 落語でつかむ 話し方の極意』より

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