落語家に学ぶ 魅力的な自己紹介

撮影:武藤奈緒美
認知科学者の見知から、落語を通してコミュニケーションの本質に迫る野村亮太(のむら・りょうた)さん。そして、人気若手落語家として活躍する立川(たてかわ)こはるさん。野村さんは、「『自己紹介』は、誰もが体験したことのある、初対面の人とのコミュニケーションの第一歩。しかしながら、限られた時間の中で、適切に自分の人となりを伝えるという目的を果たさなければならない、ある意味、難易度の高い課題とも言えます」と指摘します。そこで、魅力的な自己紹介の見本として、立川さんが高座で行う「名乗り(自己紹介)」を見てみましょう。

* * *

お初にお目にかかります。落語家の立川こはると申します。
ちなみに伺いますが、人生で初めて落語を見ますよ、って方、いらっしゃいますか? ( 挙手を求める )
あ、いらっしゃいますね。
落語家というと、みんな、おじいさんのイメージ(ポイント1)があると思いますが、こういう若いのがおりまして……。
といっても「坊や」じゃぁ、ございません。
わたくし、34歳の女性でございます。
いや、不安に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫です。
わたくしの師匠の師匠である立川談志も、一年間、女性だと気がつかなかった(ポイント2)というエピソードを持っております。
高座では一所懸命におしゃべりするんでございますが、落語をやって15分、終わったあとに、ありがとうございました、とお客様をお見送りしますときに、
「坊やっ! がんばってねっ!」
とまぁ、毎日、そんな日を暮らしております。
わたくしが女性であることをご了解いただいた女性のお客様は、「まぁ、女の子なの」くらいなものですが、男性のお客様は、「女性です」と言っても、「ふ〜ん、だから?」と、興味なさそうな顔をされております。
ところが、いざ落語が始まってみると、ずーっと、わたくしの喉のど仏ぼとけを探しておられたりする。ね。今、探してたでしょ?(笑)(ポイント3)
皆様、意外と気になっているようですが、男性と女性で、反応が違うのもおもしろいところでございます。
まだまだ若手ではございますが、キャリア11年目、立川こはるでございます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

■野村亮太のここに注目!

ポイント1 女性の落語家は増えてきたとはいえ、お客さんの中には見たことがないという方もまだまだ多いもの。予想していないであろう状況なので、お客さんがついてこられるように、ワンクッションを入れています。
ポイント2 印象に残るインパクトの強いエピソードですね。聞いている人みんなが立川談志師匠を知っているということを前提にしています。
ポイント3 「 興味のなさそうな物言いの男性客も、やっぱり気になっていた」という軽いネタですが、細部までこまやかな注意が払われています。「喉仏」というキーワードだけで、聞き手に男性客の思考の流れを理解させます。また、客席に向かって話しかけることで、観客との距離をぐっと近づける効果も生まれています。
■『NHKまる得マガジン 落語でつかむ 話し方の極意』より

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