こっくり、照りよし──総菜店の煮物ワザ

ほっくり、ねっとりのバランスが絶妙の煮上がり。盛りつけは「立体的に、皮もところどころ見せる」(上田さん)。撮影:藤田浩司
テキスト『NHK趣味どきっ!明日使える!お弁当大百科』で料理講師を務める渡辺あきこさんが「いい味。つい買いたくなる」と、好んで買い求める総菜店。「和食はかくあるべき」の常識を超えるレシピの秘密を探りました。

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「名古屋に行くと、帰りの電車に乗る前に寄るお店です。並んでいるお総菜を詰め合わせたお弁当がおいしいんです。こんにゃくなんて本当にいい味で、どうやって煮ているのかしらと思っていた」。
料理研究家の渡辺あきこさんが熱くこう語るのは、1987年の創業以来、百貨店を中心に全国各地に出店を続ける、名古屋に本社をおく総菜店です。創業者で社長の松岡まち子さんが追求したのは、手羽先、みそカツといったいわゆる名古屋メシではなく、料亭の味でもなく、おふくろの味。「自分の母の味がいちばんおいしい」との確信から、それを「冷めてもおいしいレシピ」にし、多忙な現代の家庭人たちに届けたいと志を掲げていたといいます。
渡辺さんが好むこの店の煮物は、まさにその思いの結実として生み出された代表的な味。「弱火でコトコト煮含ませる料亭の煮方ではなく、終始強火で表面にしっかり味をのせ、つやをのせる煮方。これが冷めてもおいしい当店の煮物」と、商品本部で主幹を務める上田茂雄さんは語ります。
この店の特徴は、各店のバックヤードに必ず厨(ちゅう)房が構えられていること。出来合いではなく、厨房で調理されたばかりの総菜が、時に湯気の上がる状態で並びます。
「レシピは共有されていますが、例えばかぼちゃなどは、時期や産地、出荷時の熟成度合いによって状態がまったく違います。特にうちの煮物の場合、煮上がりのタイミングはもう、つくる人の感性に委ねるしかない。レシピを基本としつつ、お客様に出す前に必ず味見しましょう、という点を徹底しています」(上田さん)
不動の人気は、そのかぼちゃの煮物とこんにゃくの煮物。「ありがたいことに“うちの味”を好んで買い続けてくださるお客様が多いので、よくも悪くも売れるものが変わらない」と笑います。
 

■最後は泡の声を聞く

キッチンで、その人気の2品の煮方を見させてもらいました。直径45cmの鍋に、三角形の生芋こんにゃくと煮汁(水、オリジナルだしじょうゆ、酒、みりん、砂糖、赤とうがらし)、5〜6cm角のかぼちゃと煮汁(水、オリジナル白だし、酒、みりん、砂糖)を入れ、強火で一気に煮立てます。鍋の側面にまで炎が回るほどの強い火加減で煮詰めていくのがポイント。「かぼちゃは、最初に浮いてくるアクだけを取って少し火を緩めたら、あとは触らない、揺すらない、アクも取らない。アクもうまみのうちです」(上田さん)
ひたすら煮詰めていくと、ブクブク大きく立っていた泡が、あめ状の小さな泡に変わってきます。これが煮上がり直前。こんにゃくは最後に木べらで大きく混ぜ、「パチパチ」と音がたったら煮上がり。かぼちゃも同じく泡が小さくなり、「カラメルが焦げる手前の濃い煮汁になっていたら、『もういいよ』の声」(上田さん)
ツヤツヤの照りと、冷めてもなおごはんの進むしっかりからんだ甘辛さがたまりません。
■『NHK趣味どきっ!明日使える!お弁当大百科』より

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