「その手は指が自然に指す」……畠山 鎮七段が伝えたい棋士の感覚

7月から半年にわたり、『NHK 将棋講座』テキストの別冊付録「指に染み込ませたい 極上手筋」をお届けします。講師は奨励会の幹事を9年間務め、若手の育成に力を注いできた畠山 鎮(はたけやま・まもる)七段。まずは、講座の狙いとプロ筋の定義について伺いました。

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将棋の手筋の解説書は多いですが、今回はプロの視点から、[プロの感覚]とか[プロなら一目]、また[ その手は指が自然に指す]などの「棋士の感覚」を伝えたいと考えています。
これらは棋士がよく使うフレーズですが、なかなか言葉で説明するのは難しいものです。しかし、できるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。
私は奨励会(プロの養成機関)の幹事を9年間務めましたが、「まだまだプロの将棋ではないなあ」と感じる子どももいれば、新人であっても「すでにプロ筋で伸びるな」と感じることもありました。そして、やはりほぼ例外なく、プロ筋を身に付けた子どもが抜いていきました。
今回は序盤編、何気ない序盤にもプロの悩み、意識が込められています。それを感じ取ってお楽しみいただければと思います。
 

■プロ筋の定義とは?

アマ四〜五段の子どもたちの場合、ほとんどが奨励会6級を受験します。将棋の内容的には、定跡を丸ごと覚えているより、外れたり、自力で切り開くタイプのほうが力はつきます。
しかし、奨励会の有段者になるとそれでは通用しなくなるので、[用心深い序盤][相手を怖れず切り合う中盤][ギリギリの一手勝ちに踏み込む終盤]この三つは備えていないといけません。特に中盤で相手の手を警戒し過ぎる将棋は精神的にも疲労感が強いですし、将棋の内容自体も縮こまって伸びしろがなくなります。
それから、奨励会の大きな問題に、二段以下には「香落ち」があります。
二階級差の手合いで一階級差は平手と香落ちを交互に(同じ日ではない)指しますが、左香の本当にわずかな弱点を的確に突かないと上位陣には勝てませんし、上手は研究すればするほど自分の不利しか見えないので、どこかで「不利は承知だが相手は下位者(=弱者)なので勝負」の呼吸が必要になります。
対戦相手はローテーションでも、やはり当日まで誰との対戦か分からないため、奨励会員の多くは[精密な研究で弱点を突く下手]と[正確に指すと苦しいので勝負手(相手の嫌がる、混乱する手)を連発する上手]の立場を、幹事が手合いを発表してから数分で切り替えて対局に臨まないといけません。
それが平手での戦いにもつながり、局面ごとに視点を変えていくことができるようになります。
プロはこうして、今回は[何気ない一手なのか][実は危険な一手なのか]という判断を瞬時に行い、次の一手を指に染み込ませる修練を積んでいくのです。
別冊付録では、問題形式でさまざまな局面を検討します。解説文にスペースを多く割きましたので、たっぷりとプロの思考の世界をお楽しみください。
■『NHK将棋講座』2016年7月号より

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