競馬界に高まる将棋熱

観戦記者で指導棋士の後藤元気さんが、神南の放送センターや千駄ヶ谷の将棋会館など渋谷界隈をうろつく棋士や関係者のエピソードなどを綴る連載「渋谷系日誌」。今回は滋賀県栗東のトレーニングセンターで将棋好きのホースマンたちとおこなった懇親会の様子をレポートします。

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朝一番の列車に飛び乗りまして、まばたきを2回しているうちに京都に到着。最近の新幹線は早くなりましたなぁ(寝てただけ)。
この日は毎年恒例の関西競馬遠征。日中は京都競馬場で勝負、夜は滋賀県栗東のトレセンに移動して栗東将棋部の方々と懇親会という流れです。なお馬券勝負のほうは、劣勢のまま見せ場もなく終局という順当な結果でした。
トレセンとはトレーニングセンターの略。馬が暮らす厩舎(きゅうしゃ)や、文字どおり調教して鍛えるための施設がある、いわば競馬村ですね。
わが将棋村にも競馬ファンが多く、今回は東京からは阿久津主税八段やライターの内田晶さんらが同行しました。この遠征は例年だと渡辺明棋王が中心に動いてくれるのですが、今回は対局が重なってしまったため無念の欠席。くっ。
関西の将棋村からは伊奈祐介六段と矢倉規広七段が参加。なお皆さんの馬券の結果も、(以下略)。
栗東トレセンではここのところ障害競走の騎手の間で将棋熱が高まっています。
今回は2014年の中山大障害(平地競争でいえば有馬記念!)をレッドキングダム号で制覇した北沢伸也騎手と、障害重賞最多勝利記録(19勝)を持つうえに新婚ホヤホヤの白浜雄造騎手が来てくださいました。北沢騎手は本誌を隅から隅まで、それこそNHK杯戦の観戦記は盤に棋譜を並べ返しながら読んでくれているそうです。
少し遅れて伊奈六段とむちゃくちゃ仲のよい川島信二騎手や、チャーミングな宮本博調教師などなど。楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。
翌朝はトレセンにある調教スタンドの詰め所へ。ここには将棋盤だけでなく、解説に使うような大盤が置いてあります。
朝早くこの大盤に詰将棋を並べるのは片山良三さん。いまは競馬のお仕事をされていますが、かつては花村元司九段門下で奨励会に在籍していました。もちろん将棋はいまでもハンパない強さ。
だから競馬村では自分が指すよりも活動を見守る感じで、大盤に並べる詰将棋も、やさしすぎず難しすぎずでいいあんばいです。
帰りは草津駅(群馬の温泉にあらず)から京都駅に出るのですが、トレセン滞在があまりにも楽しすぎるため、いつからか改札に向かう階段を「現実への階段」と呼ぶようになりました。一段ごとに現実が、普通の日常が迫ってくる。また翌年に来られるように、お仕事をがんばりましょい。
■『NHK将棋講座』連載「渋谷系日誌」2016年1月号より

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