三浦弘行九段が棋聖位奪取後の自分にアドバイスしたいこと

写真:河井邦彦
今月登場するのは三浦弘行(みうら・ひろゆき)九段。将棋でも人生でも自分が選んだ道は最善だと信じるのがモットー。ただ、若いころの自分にアドバイスしたい気持ちがあるそうです。

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■三浦弘行九段、自らを語る

私の将棋の特徴は、勝負どころで踏み込んでいくほうだと、自分では思っています。小さな得を巡って、際どい順を選ぶことが多いです。踏み込みを欠いてしまうと、大きな損を招くのがプロの将棋の厳しさと言えます。
1図は松尾歩七段(当時)との第64期王将戦二次予選(2014年9月30日)で、後手が△7五歩と打った局面です。

▲7七金引と金を逃げると、△7六桂と打たれて後手の攻めが加速します。実戦の▲4四歩△同金▲3三歩△同桂▲3六桂が決断の踏み込みで、以下△3四金▲2四桂△同金▲同角△7六歩に、▲2一銀(2図)と打って私の勝ち筋となりました。
2図から△4五桂▲3二銀成△同玉に再度の▲2一銀で後手玉は寄り筋です。前々から、こう進めば勝ちそうだと描いていた順になった将棋で、私らしさが出た会心の一局として印象に残っています。

踏み込みのよさが勇み足になることもあります。ですが、結果的に自信を持って指した手が悪手だったとしても、後悔はしません。人生も一緒です。たとえ過去に戻って別の道を進んだとしても、また違った苦労があるはずです。比較ができないので何とも言えませんが、自分の選んだ道は最善だと信じます。
後悔はしていませんが、若いころの自分にアドバイスをしたい気持ちはあります。22歳で棋聖を獲得した直後「むしろ、ここからさらに努力をしなさい」と厳しく言いたいですね。慢心していたということはなかったと信じたいですが、その後の成績を考えると甘さがあったと痛感します。不惑を過ぎてその思いがより強くなりました。年齢を重ねると家庭の問題その他で何かと時間を取られるものです。若いときしか将棋漬けの日々は送れません。ですので、もっと将棋と向き合いなさいと伝えたいですね。
昨年の秋に結婚をしました。出会いの場は電王戦が終わったあと、ご縁のある方たちが開いてくださった慰労会でした。そこに妻が参加していたのです。優しいところに惹(ひ)かれて、おつきあいをするようになりました。より責任感が求められる立場になりましたので、これまで以上に頑張らなくてはいけませんね。
■『NHK将棋講座』連載「あなたの知っている/知らない三浦弘行」2016年1月号より

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