糸谷哲郎竜王が竜王になって変わったこと

NHK杯戦のインタビューに答える糸谷竜王。写真:河井邦彦
山崎隆之(やまざき・たかゆき)八段からのバトンを受けていただくのは、森信雄七段門下の弟弟子、糸谷哲郎(いとだに・てつろう)竜王。大学院生として哲学を学ぶ異色のトッププロの魅力にどこまで迫れるでしょうか?

■山崎隆之八段より糸谷哲郎竜王への質問

Q糸谷くんはタイトル戦を戦いながらもイベントの企画書を書いたり、刺激がもらえると思ったらいろいろな人に会いに行ったり、仕事に遊びにと奔走していますが、長生きしようとしていますか? もしかして『太く短く』を目指しているのですか?
以前、「西遊棋」を始めるときに企画書を書いたことがあります。今は他の若手棋士が実行委員をしてくれるようになったので、任せていますよ。最近は宮本広志四段が中心になって、8月のイベントを準備しているみたいです。
最近は夜型生活で、だいたい2時か3時に寝て、8時くらいに目が覚めます。睡眠時間が短いのですが、自然に目が覚めるようになってきました。こないだ友人の家に泊まらせてもらったのですが、起きたら「うなされていたけど大丈夫か」って言われました。何かに追い詰められているんですかね。
別に、『太く短い人生』を目指しているわけではないですよ。ただ、自分のパフォーマンスが発揮できるのはある程度若いころだと思っていまして、「今じゃないと発揮できないパフォーマンス」を追求していこうと思っています。それは将棋だけでなく、人生におけるいろいろなことですね。
私は発想性や独創性を作ることが大事だと思っています。忙しすぎて疲れないかと心配されることもありますが、人生に必要なことだと思ってやっています。
大学に復学はしていますが、全く行く時間が取れないです。この2か月で1回行っただけ。でも、今は今できることを精一杯やっています
Q 糸谷くんは将棋に対するロマンをたくさん持っている棋士だと感じていて、勝負における「勝ち」にこだわる部分は多くなかったように感じていましたが、『竜王』になって変わりましたか?
完全に「勝ち」にこだわるほうにシフトしました。それまでは「芸術家」の面もありましたが、今はその要素はなくなっています。結局自分は、勝ちを目指していた。勝ちを目指すことが現状の価値だと思っています。
そう考えるようになったのは、タイトルを取る少し前、……そうですね、1〜2年前からでしょうか。それまではどちらかというと自分の好きな将棋を、指したいように指していました。でも、好きな将棋はいつでも指せますしね。
それから、対局中の考え方を意図的に変えるようにして、シビアに局面を見つめるようになりました。それまではやってみたいからやる、という側面もありました。
でもまだまだですね。継続的な努力ができず、すぐ緩んでしまいます。あと自分が疲労に弱いタイプだと分かりました。過負荷をかけて、無理をしてしまいます。
以前、山崎さんに「高スペックな最新戦闘機なんだけど、自分では石油基地を持っていない。燃料は他から輸入して調達しないといけない」という評価を受けたことがありました。周りの活躍が刺激にならないとエンジンがかからないと。確かにその通りなんです。でもいま豊島くんや関西の若手が活躍しているので、自分もそろそろエンジンが上がってくるかなと思っています。
■『NHK将棋講座』2015年8月号より

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