お笑い芸人による将棋イベント「将棋の王将」

将棋に魅せられたお笑い芸人が多数登場し、観客の前で対局するという画期的なイベント、「将棋の王将」が、東京都世田谷区にある下北沢「小劇場B1」で開催された。予想以上の盛り上がりを見せたその模様を、森充弘氏にレポートしていただく。

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対局中心のイベントが、将棋が初めての方でも楽しめるものなのかどうか、私には会場に向かうまで想像がつかなかった。このイベントを開催したのは、舞台、イベントの主催・企画などを手がけられているスラッシュ-パイル代表取締役の片山勝三さん。片山さんは元吉本興業のマネージャーで、南海キャンディーズを見いだし、育つ場を作り続けてきた方でもある。
「以前、人生でオセロを一度も負けたことがないと豪語するキングコングの西野亮廣さんに芸人さんがオセロで挑戦をするというライブをやったことがあり、非常に好評でした。そのようなこともあったからか、今回、スパローズの大和一孝さんから将棋企画の提案があって、やってみようということになりました」と語る片山さん。心強い。

■オープニング

開演は午後7時。80席ほどの会場は満席で女性比率は75%。MCのポテト少年団の菊地智義さんが客席に問うと、将棋のルールを知っている方はほぼ半分。
はじめに、出演者からそれぞれ将棋との出会いについて語られる。真面目に話しているのになぜかおかしい。そして、解説を務める佐藤紳哉六段が、NHK杯戦でも着用していたカツラをかぶって登場。「砂糖のように甘い言葉で深夜に君を寝かさない、佐藤紳哉です」。ところが、芸人たちから「あたま、あたま」と掛け声がかかり、佐藤六段は序盤早々カツラをはずすハメに。驚いて呆然(ぼうぜん)とするお客様50%、大笑いのお客様50%。

■対局

舞台には、日本将棋連盟から貸し出された盛上駒、かや盤、脇息がセットされ本格的な対局環境。隣にマグネット盤があり、ピン芸人の本多おさむさんなどが対局の進行どおりに駒を動かし、それがプロジェクターを通してスクリーンに映し出される。吉本所属芸人の吉本軍と、それ以外の事務所所属の連合軍の団体戦形式で、一局の時間は15分。
勝負がつかなかった場合は佐藤六段による判定で勝敗が決まる。第1局はLLRの福田恵悟さんと俳優、声優などさまざまな分野で活躍中の小林顕作さんの一戦。福田さんの初手▲7六歩に「いい手、いい手、効いてる効いてる」と格闘技会場風の掛け声が吉本軍からかかる。
対局者以外の出演者は、最前列の机に陣取り、対局を見学している。見学といっても芸人による見学なので野次(やじ)、独り言など言いたい放題。解説席の佐藤六段への質問も飛び出し、会場には笑いが絶えない。
佐藤六段の解説は「52対48で先手がやや優勢です」「今の手でだいぶ差が縮まりました」のような将棋を知らない方にも勝負の流れが実感できる分かりやすい内容。要所要所で笑いもとっている。
対局は、小林さんの石田流がさばけ、小林さんの判定勝ち。ここまで見ていて、私はこのイベントの面白さにビックリした。もし第2回も行われるなら友人も誘って来よう。将棋を知らない方にとってはどうだろう。会場を見まわしてみると皆さんがすごくいい笑顔になっている。
イベントが終わってから「将棋ってこんなに面白かったんですね。いやー、びっくりしました」と語る片山さん。プロデューサーを感嘆させるほどのイベントだったのだ。ツイッターでは15名ほどのお笑いファン、プロレスファンの方が、将棋は初めてだったけれどもとても楽しいイベントだったという感想。
将棋の新しい楽しみ方が生まれた夜だった。
※イベントではこの他にも、ランパンプス寺内ゆうきさん・ひので池田直人さん×スパローズ大和一孝さん・ザブングル加藤歩さんの一手交代のリレー対局、囲碁将棋の根建太一さんと佐藤六段の目隠し六枚落ち戦など、ユニークな対局が全6局行われました。その様子はテキストでお楽しみください。
■『NHK将棋講座』2015年7月号より

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