第3回電聖戦、二十五世本因坊治勲を相手に史上初の三子局へ
- 撮影:小松士郎
3月17日、プロ棋士とコンピューター囲碁の公式定期戦「電聖戦」が、電気通信大学において開催された。コンピューターは、第8 回UEC杯コンピュータ囲碁大会で優勝したCrazy Stoneと、準優勝のDolBaram が出場。対する棋士は二十五世本因坊治勲。手合いがついに三子になるという、歴史的な一戦となった。
* * *
■史上初の三子局
電聖戦は、コンピューター囲碁の棋力の進歩を正確に測ることを主な目的に2012年にスタートし、これまで武宮正樹九段、二十四世本因坊秀芳、依田紀基九段というそうそうたる面々がコンピューターと対戦してきた。第2局に出場するCrazy Stone は前回、前々回とも四子局で棋士に勝利を収めており、今回、三子局での対戦が実現することとなった。
棋士にとっては、一隅空く三子局は勝負碁であって、負けるわけにはいかない手合いだそうだ。当日の解説者である依田紀基九段も「よほど油断しないかぎり、治勲先生が勝つでしょう」と述べ、立ち見が出るほどの観戦者も、今回の対局者である二十五世本因坊治勲の勝利を疑っていない様子だった。
しかし、そのCrazy Stoneとの対局の前に行われた第1局、DolBaram との四子局を目撃した観戦者、解説の依田九段、そして対局者である本因坊治勲のコンピューターへの見方は、大きく変わることになる。
■完全に負かされた
第1局に登場したDolBaram は、韓国のイム・ジェボムさんが開発したプログラムで、電聖戦に出場するプログラムの選考も兼ねた第8回UEC杯コンピュータ囲碁大会に初出場で準優勝という新鋭だ。
開始前の挨拶で「最近人間に勝てなくなってきたから、その憂さ晴らしにしたい」と語るなど、笑顔が絶えなかった本因坊治勲だったが、対局が開始して10手、20手と手が進むにつれ、徐々に表情がこわばっていくのが分かる。そして依田九段が「治勲先生はちょっとコンピューターを侮っていた。碁になっていない」と述べるほどの差がつき、白が中盤から追い上げるも、250手で黒の中押し勝ちとなった。
対局後、ハンカチを握りしめ無言で盤面を見つめる本因坊治勲の顔は紅潮し、「打っていて、熱くなってしまった。完全に負かされた。次の三子局は、けんかせずに逃げ回っていきたい」と述べ、第2局に向けて完全に本気モードに入ったようだ。
■血が通ったコンピューター
第2局に登場したCrazy Stoneの開発者であるフランスのレミ・クーロンさんは、コンピューター囲碁が急速に強くなった基礎であるモンテカルロアプローチの先駆者である。
いよいよ注目の三子局。序盤早々、黒に疑問手が出て、依田九段が「白の勝つ確率は90%」と宣言するほどの差がつく。最後は黒に悪手が続き、185手で白の中押し勝ちとなった。本因坊治勲は「手どころにめちゃくちゃ強い。途中、乱暴してきて、血が通った人間のようだった。いずれは人間をギャフンと言わせてほしい」と、笑顔で締めくくった。
大会を主催した電気通信大学の伊藤毅志助教が「コンピューターには、もうひとつブレークスルーが必要。でも、新しいプログラムも出てきている」と語るとおり、その棋力はまだまだプロには及ばないが、アマチュアにとってはかなりの好敵手となった囲碁プログラム。今後の進化を恐れるのではなく、楽しみにしていきたい。
■『NHK囲碁講座』2015年7月号より
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■史上初の三子局
電聖戦は、コンピューター囲碁の棋力の進歩を正確に測ることを主な目的に2012年にスタートし、これまで武宮正樹九段、二十四世本因坊秀芳、依田紀基九段というそうそうたる面々がコンピューターと対戦してきた。第2局に出場するCrazy Stone は前回、前々回とも四子局で棋士に勝利を収めており、今回、三子局での対戦が実現することとなった。
棋士にとっては、一隅空く三子局は勝負碁であって、負けるわけにはいかない手合いだそうだ。当日の解説者である依田紀基九段も「よほど油断しないかぎり、治勲先生が勝つでしょう」と述べ、立ち見が出るほどの観戦者も、今回の対局者である二十五世本因坊治勲の勝利を疑っていない様子だった。
しかし、そのCrazy Stoneとの対局の前に行われた第1局、DolBaram との四子局を目撃した観戦者、解説の依田九段、そして対局者である本因坊治勲のコンピューターへの見方は、大きく変わることになる。
■完全に負かされた
第1局に登場したDolBaram は、韓国のイム・ジェボムさんが開発したプログラムで、電聖戦に出場するプログラムの選考も兼ねた第8回UEC杯コンピュータ囲碁大会に初出場で準優勝という新鋭だ。
開始前の挨拶で「最近人間に勝てなくなってきたから、その憂さ晴らしにしたい」と語るなど、笑顔が絶えなかった本因坊治勲だったが、対局が開始して10手、20手と手が進むにつれ、徐々に表情がこわばっていくのが分かる。そして依田九段が「治勲先生はちょっとコンピューターを侮っていた。碁になっていない」と述べるほどの差がつき、白が中盤から追い上げるも、250手で黒の中押し勝ちとなった。
対局後、ハンカチを握りしめ無言で盤面を見つめる本因坊治勲の顔は紅潮し、「打っていて、熱くなってしまった。完全に負かされた。次の三子局は、けんかせずに逃げ回っていきたい」と述べ、第2局に向けて完全に本気モードに入ったようだ。
■血が通ったコンピューター
第2局に登場したCrazy Stoneの開発者であるフランスのレミ・クーロンさんは、コンピューター囲碁が急速に強くなった基礎であるモンテカルロアプローチの先駆者である。
いよいよ注目の三子局。序盤早々、黒に疑問手が出て、依田九段が「白の勝つ確率は90%」と宣言するほどの差がつく。最後は黒に悪手が続き、185手で白の中押し勝ちとなった。本因坊治勲は「手どころにめちゃくちゃ強い。途中、乱暴してきて、血が通った人間のようだった。いずれは人間をギャフンと言わせてほしい」と、笑顔で締めくくった。
大会を主催した電気通信大学の伊藤毅志助教が「コンピューターには、もうひとつブレークスルーが必要。でも、新しいプログラムも出てきている」と語るとおり、その棋力はまだまだプロには及ばないが、アマチュアにとってはかなりの好敵手となった囲碁プログラム。今後の進化を恐れるのではなく、楽しみにしていきたい。
■『NHK囲碁講座』2015年7月号より
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