「からだ中で一番かわいい骨」って? ファッションが詠まれた軽やかな歌

テキスト『NHK短歌』の連載「短歌de胸キュン」では、「かりん」編集委員の梅内美華子(うめない・みかこ)さんが、身近な要素を題材に伸び伸びとうたわれた短歌を紹介しています。3月号のテーマは「ファッション」。自分らしさを表現する手段であるファッションが詠み込まれた歌には、作者の素顔が見て取れます。

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服装や髪型などの流行をファッションというのですが、今では単に服装の意で用いられることが多いようです。若い方のファッションを見ているとトレンドを上手に取り入れているのに感心します。そこにはおしゃれを楽しむということ以上に、他者との差異について敏感である若者が見えてきます。トレンドに乗り遅れたくないというのは、他人とあまり違っているのが怖いということでもあります。一方、他人と同じではつまらないという意識を持っている人は、自分らしさを表現するために工夫しています。
日本人の服装は洋服が主流になってから、様々な楽しみ方が生まれました。生地もシルクやウールの他にさまざまなものがあり、帽子やスカーフ、リボン、ベルト、ボタンなどにも用途を越えて好みやこだわりが映し出されています。
今回はファッションが詠み込まれた作品に日々の気分や思いがどのように表現されているかを見ていきましょう。
冬ブーツしまって履こう春ブーツうすむらさきの短いブーツ

岸原さや『声、あるいは音のような』


ブーツも女性のファッションに欠かせないアイテムとなりました。乗馬ブーツのメンズライクな感じ、ムートンやファー付きなどいろいろな素材や色があり、服装やシチュエーションに合わせておしゃれを楽しんでいるようです。そして最近は冬の寒い時期以外にも、ニーハイ(ロング)ブーツを履いている若者もいます。この歌は「冬ブーツ」の次に「春ブーツ」で足元のおしゃれを楽しむとうたっています。冬靴や春服といった、漢字に四季を冠する言い方がありますが、ブーツという外来語の上に四季を冠して使っているところも現代的です。そして「うすむらさきの短いブーツ」と、色や丈が具体的に描かれたことによって、新しい季節に向かう気分が伝わってきます。季節を楽しむのにファッションなどのモノから入ってゆく、ということですね。服装やモノは気分やモチベーションを上げる作用もあります。
からだ中で一番かわいい骨だけをあなたに見せるためのサブリナ

嶋田さくらこ『やさしいぴあの』


サブリナ・パンツという女性用のズボンがあります。映画『麗(うるわ)しのサブリナ』でオードリー・ヘップバーンが履いたことからこのように呼ばれるようになりました。細身の、ふくらはぎの途中で切れた八分丈のパンツで、脛(すね)やくるぶしの素肌を見せるカジュアルな印象のものです。いまも多くの女性が履いています。作者は「からだ中で一番かわいい骨」を見せるのがサブリナ・パンツだと考えているようです。その骨はくるぶしのことでしょう。足首の骨が盛り上がって丸みがあるところです。漢字で「踝」と書き、旁(つくり)の「果」がその丸さを表していてイメージがわきます。くるぶしをかわいくて魅力的な部位と捉えているところ、そして「かわいい」という感覚に女性らしい意識がうかがわれます。また「一番」「だけ」「あなた」と限定する語を続けることで、自分の魅力を好きな人に訴えかけたい恋愛の気持ちが伝わってきます。作者には「サングラスをカチューシャにして手を振れば夏っぽいねと笑ってくれた」(同)という歌もあり、ファッションに恋愛や季節の気分を軽やかに添えることが上手なことがうかがわれます。
■『NHK短歌』2015年3月号より

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